なんてったって恋 やさしさ、というものがなんなのか、真島はよくわからないまま年を重ねてきた。
噂に聞くそれの正体はどうやら、あたたかく柔らかで、穏やかに凪いだものらしい。探れば探るほど、自分には縁のない感情に違いなかった。そんな浮ついたものを100%の純度で真島に向ける人はいなかったし、何より己が他人にそういう感情を抱いたことがあるのかすら、わからなかった。一見やさしさのように見える感情の背後にも、怯えや同情、憐憫がびっしりと蔓延っていたりする。物事には裏表があるのが普通で、澱みなく澄み切った想いなんていうものは、滅多にお目にかかれない。ただ、それは真島からすれば当然のことだった。ここはそういう世界で、暴力が物を言うなんて日常茶飯事だ。周りにいるのは力でのし上がってきた男ばかりで、人の情緒の機微に不満を言う意味すら見出せなかった。
5724