夜「……」
こんなことを言うとナルシストだなんだとバカにされそうだが、こうやって眠って落ち着いている顔を見ると、同じ顔だとしても、綺麗だなと思う。
(寝てんのに眉間にシワよってら)
ふっと吐息をもらして、愛しい弟の眉間を親指で優しくさする。ゆるりと眉間の力が弱まり、穏やかな寝顔に変わる。すうすうと寝息を立てる様はまるで赤子のようで可愛らしい。いつもの冷静で変化の少ない表情を見慣れているからこそ、新鮮さを感じる。
(こうやって無防備に、2人で一緒に眠ったのは久しぶりだな……)
戦いと訓練ばかりの毎日だった。あの頃とは違い、魔物の脅威に怯えることもない、同族たちの諍いを目にし、疲れと切なさを覚えることもないこの天星郷で、弟と子どものようにはしゃいで、疲れて、同じベッドで泥のように眠った。それなりに体躯の良い男2人で寝転がっているからベッドが狭い。けれど、弟と穏やかに2人きりで居られていると思うとそんな不快感はどうでも良かった。
(喉乾いたな…)
からりとした喉の乾きを覚え、ゆっくりと己が身に乗りかかっていた弟の腕をどかして上半身を起こし、足をベッドの外に放り出す。水は1階かな……なんてことを考えつつ、立ち上がろうとするが、ぐっとなにかに阻まれる。
「うお、っとと……レオ?起きたのか」
「……どこにいくの」
眠気を孕んだ気怠げなで呂律のあまり回っていない声に吐息がこぼれる。眠たそうに眉をひそめ、薄く開けた目でこちらを見る。愛らしいなと思いながらさらりと弟の髪と頬を撫でる。
「水をもらいに。レオもいるか?」
「…………いらない……」
襲いかかる眠気に抗えないとでも言うように虚ろの寝ぼけ眼を何度も瞬かせながらぶっきらぼうにそう答える。その双眸はほとんど眠っていて、目覚めたあとは覚えていないだろうなと苦笑し、優しく額にキスを落とす。すぐ戻るから、と言った瞬間、レオーネの瞳がしっかりと開かれ、こちらを捉えていることに気付いた。
「…レオ?」
「ねえ、まだここにいてよ。まだいいだろ。時間はたっぷりあるんだから……」
今度はしっかりとした声色でそう言われる。腰を掴んでいた両腕に力がこもるのを感じ、困ったように眉尻を下げる。頬を撫でていた手に甘えるようにレオが擦り寄る。だめ?と珍しく可愛げにねだるレオに、不覚にもきゅんとしてしまう。それにつられて仕方ないな…と言ってしまう俺も、まだ半分夢の中にいるんだろうと言い訳まがいのことを考えながら、先程まで自分の横たわっていたレオの懐に潜り込む。腰に巻き付けられていた腕が脇の下を通り、絶対に離さないとばかりに背中を捕らえる。思わず笑みを零して自分もレオに抱きつく。
「……どこにも、いかないで…」
なんとなくその言葉に他意を感じつつも、なにも言葉を返さないまま微睡みに身を任せ、ゆっくりと意識を落とした。