no titleまた今年もこの面白くない時期がやって来た。
彼がいつ部屋に来るかなと気になって目の前のゲームにも身が入らない。
「リバル、いるか?」
ガチャリとドアを開ける音と共に聞こえてきた声に椅子ごと振り返る。
そこには両手で箱を抱えたマイタスが立っていた。
「いたいた。今年も引き取ってくれ」
そう言いながら彼は部屋へ入ってきて、デスクに箱をドンと置いた。
中は色とりどりの包装紙に包まれたチョコレート。
毎回のことだからわざわざ中身を確かめなくっても分かっている。
カオスイズムの中でもバレンタインが横行しているのはあまりにも俗っぽいが、カオスに従うという意味では当然のことなのかもしれない。
マイタスはガタイもよく、顔立ちも整っており、脳筋バカでもないので実際よくもてる。
なのでこの時期になると彼のもとにはチョコレートの贈り物が集まり、それを食べないマイタスが僕に箱ごと押し付けてくるのだった。
元々ただの同僚でしかなかった時から続いていることだけど、当然今の僕にとってそれは面白いことではない。
何で分からないのかなーと思いながら箱の中を軽く物色するとメッセージカードを見つける。
「あのさー、手紙とかは抜いて持ってきてよ」
「ああ? そんなもん、捨てときゃいいだろ」
メッセージカードを手に呆れて文句を言うと、マイタスは面倒そうに頭を掻いた。
マイタスの言葉がチクリと胸に刺さる。
何だろう、まるで僕のこの面白くない気持ちごと捨てろと言われたような気がしてすごく嫌な気持ちになった。
そのままじっとカードを眺める僕にマイタスははあと息を吐く。
「俺が全く興味がないのはお前が一番分かってるんだろ?」
そのまま握った拳をトンと僕の額に押し付けた。
顔を上げると彼は少し困ったような、照れているような何とも言えないしょっぱい顔をしている。
こういう顔見せるのってズルいよね、そんなことを思いながらマイタスの拳を払い除けた。
「だいたいお前だって結構貰ってるだろ」
「ま、当然だよね」
「だったら」
「もしかしてマイタス、ヤキモチ妬いてる?」
「バッ……」
途端彼は言葉を失い、口をパクパクさせる。
そのままじっとマイタスの顔を見つめると、彼は再び困ったような顔をして僕から視線を逸らした。
「そりゃ、少しは面白くないとは思うが」
少しだけ耳を染めて言われた言葉に仕方ない、ここで手打ちにしてあげるかと思う。
「はいはい。面白くないよねー。じゃあ手紙は持って帰る。自分で何とかしてよ」
そう言って箱に両手を突っ込んで、封筒やカードの類を箱の外に出す。
一通り確認し終わると手紙の束をマイタスに持たせた。
「じゃあチョコは貰ってあげるね」
そのままマイタスの身体を出入口の方へと押し遣り彼を部屋から追い出す。
しかし、結構手紙も入ってたなー。
僕が認めてるんだからモテるのは仕方ないとして、それでもやっぱり面白くない。
箱から一つ包みを取り出し、中身を口に放り込みながらマイタスの不器用さじゃあまり言ったら可哀想かもなんて思う。
そういうところがマイタスの可愛いところなんだもんね。
彼のしょっぱい顔を思い出して思わず少し顔が緩んだ。