椿と紫炎 古めかしい日本家屋ならではの広い庭の玉砂利を踏みしめて、石灯籠の先、椿が綺麗に咲き乱れる木陰に虎於はいた。
「百さんも、ですか?」
花ごと落ちた赤い絨毯の上で紫炎を燻らせながら、少し上から視線を落とされる。たかだか十数センチ。……とはいえ、がっちりした体格も合わせて、百からしたら小憎たらしさは否めない。
「楽が部屋ん中で吸うなってうるせえんだよ」
見回りの報告をしに私室を訪ねたというのに、煙草を出した瞬間に『禁煙』だと説教混じりに言われ、早々に抜け出して来たのだ。
「最近じゃ、大和も目を光らせてやがる」
ポケットから出した煙草を一本咥えると、『愛煙家は肩身が狭いな』と言いながら、何かを探してあちこちポケットをまさぐり始めた。そのうちに、何かを思い出したのか、舌打ちをして、緩く垂れ下がった虎於のタイを人差し指でくいっと引き寄せた。
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