ズキズキと全身が痛んでいる。
体の内側で反響するほどの痛みに蝕まれ、
声も出せぬほどに苦しみもがいた。
悲鳴をあげる情けない口元を塞ごうとのたうつ指先が頬を掠る。
さり
触れるだけで崩れるほどに膿んだ肌の中で滑らかな感触がひとつ、そこにあった。
確かに存在する小さなそれに触れた瞬間、
じわりと全身が心地の良い温かさに包まれた。
鉄錆に浸った世界の中で
凛と透き通るような花の香を拾い上げる。
痛みを掬いあげるような柔らかな声がした。
……………………
ぱちり、開いた目に映るのは見慣れた天井だ。
体がべたついていてまたいつもの夢を見たのだろうことはわかるのに寝起きは異様な程にスッキリとしていた。
「目が覚めたかい?」
柔らかく滑らかでいて寒気のするような声を掛けられて振り返る。
「シリウス」
「気分はどうだい?苦しくはないかな」
「ああ、むしろ気分が良いくらいだ」
その眼差しも微笑みも、いつものものだ。
施術が終わり、成果を見せれば、喜びを滲ませて褒めるような視線が向けられる。
期待されているのだと、力を手に入れそれをムカつく奴らに浴びせることが出来ると湧き上がる自信と万能感に気分が浮上する、はずだった。目覚めた時はあんなにも心穏やかでいられたのに。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いーー
胸の裡で得体の知れない何かが渦巻いている。
叫んでがむしゃらに暴れたいようなそんな。
ちがう。そうじゃない、全てが違うのだ。
だけど何が違うのかがひとつも解らない。何もわからないままただただ苦しくて辛くて、痛みではない苦しみが体を蝕んでいく。
「シャムス」
「……っ!」
冷水を浴びせかけられたかのようだった。
余計なことは考えてはいけない、自分がやるべきことはただ一つ、たった一つだけ、全てを壊すこと。自由に、言われるがまま、気ままに壊す。それだけが自分の存在を唯一証明出来る手段なのだから。
「何をすればいい?なんでも命令してくれ」
そうだ、それこそが至高の喜び。彼に仕え彼に使われ彼のために動くことだけが胸を熱くする。恍惚の中、溢れる雫が煩わしい。かぶりを振って余計なものを弾き出す。下された命を果たさなくては。
……………………………
それでいいのだと嗤う。お前に光は似合わないのだと、だってそういう風にしか俺たちは生きられないじゃないか。お前が死んで悲しむことはないけれど、そちら側に行こうとするのだとしたら、何をしてでも阻止してみてる。シリウスの顔を曇らせるのであれば、与えられた救いを裏切るのならば、きっと。