辿る熱の行く先はどこに繋がってるかじくじくと、左手が熱を持つ。
離さないとばかりに握りしめられた手の力強さに覚えた痛みは時間が経ってから熱に変わっていた。
アッシュは、無自覚に人を遠ざけることに長けた人物だ。その尊大で不遜な態度は弱い心を簡単に傷付ける。ヒーローであるために他人の手を取るような人ではなく、同じヒーローであるからこそあたりが強く厳しい。本質が悪い人間でないことは知っていたが、立ち上がれなくなった相手に優しく手を伸ばすことは無い人だ。
ぐっと握った手のひらを天井に突き出せば、左腕にしゅるりと緑色の電子の糸が巻きついた。
この糸があればビリーは自由自在に街をかけまわったり、頑張れば他人を掬い上げることだって出来る。
足を滑らせたのはわざとだった。このままではどうにもならなくて、足を引っ張ってしまうと思ったから、1人で立ち向かうには一旦体勢を立て直す必要があったから、背中から落ちるように身を投げ出した
(っ、ビリー!)
「……っ」
鼓膜を揺らしたのは珍しく焦りを滲ませたような声だった。糸を生成しようとした手のひら
が、熱で温まったアームカバーに掴まれる。そのままぐっと深く手繰り寄せられ、バングルに包まれていない手首の脈に、剥き出しの熱い指先が触れて力が込められた。血管から流し込まれる熱が移って全身が燃えるように熱くなる。
その勢いのままぐっと引っ張られて飛び降りようとしていたはずの屋上に逆戻りする。
その時ゴーグル越しに見た、一瞬のほっとした様な表情を直視してぐぅと胸が締め付けられるような痛みを覚えた。
その後、敵を撃退しながらも足元を疎かにするなだの注意散漫だのトレーニングを10倍にするだのと烈火のごとく怒られ、いつも通り態とらしく泣き混じりに酷いだの横暴だのと返したことは覚えている。けれど助けられなくても能力を使えば問題はなかったのだと、心配してくれるだなんて優しいというような言葉は何故か声にならなかった。
それを言ってしまえば、もう二度と彼から手を伸ばされることが無くなってしまうかもしれないからだという理由に気づいたのは1人天井を見上げたその時だった。
湧き上がった胸の熱をどこかに逃がそうと肺に貯めた息を吐き出したけれど、どうしても宿った熱は消えそうになかった。