呪いを解いてよ王子様それっぽくみせかけてるけど徹頭徹尾ギャグです。
主2前提で書いてるけど誰でもいける。
みんなガンガン主人公の名前呼ぶので便宜上名前を呼召紗萌那(こしょう さもな)としています。
ギャグなのでゲーム風。
からんからんからんと鐘が鳴る。
白白白、黄金に輝く鐘以外はすべて白。
白い建物白い道路白い花に柔らかく照りつける光がいっそう白を引き立てる。
建物の扉が厳かに開けば、中からヴェールを被り純白のドレスに身を包んだ何かがくるりくるりと美しく舞いながら数十体外に進んでいく。真っ直ぐ伸びた白い絨毯で出来た道を踊りながら進んでいく。
さながら純白の舞踏会。
ステップを踏みながらくるくると回ればパニエで膨らんだスカートがふわりと広がっていく。そんな時間がどれほど続いただろう。再び扉から何かが歩いてくる。それはドレスではなく純白のスーツに身を包んだ何か。
それが現れた途端に激しかったダンスがぴたりと止まる。スーツ姿の何かは手に真っ白のブーケを持っていて、それを掲げれば勢いよくドレス姿の何かたちが走り出し、扉に向かって行こうとして渋滞を起こす。
真っ白な世界に、赤が滲む。
純白の世界が赤く染まる。
建物も道も花もドレスもヴェールも赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く。
動くものの無くなった世界で唯一真っ白のスーツ姿の何かの口元がパカりと開く。
「どうして1人を選ばなくちゃいけないの?」
▶………っ!?
本が床に落ちるばさりという音に我に帰る。
▶あれ、なんで本を読んでたんだろう…?
棚に戻そうとして落ちた本を拾いあげれば、神器を発現させた時のような紋様が浮かび上がった。
▶えっ、えっ!?
慌てている内に光は収まり、気付けば先程まで書かれていた装丁とはかけ離れた本を手にしていた。
戸惑いを覚えながらも表紙に書かれているタイトルを目で辿る。
▶『キスで解ける呪いの本』………?
棚に戻すために本を元の場所に差し込もうとするも嫌々をするかのように本が飛び出して床に落ちてしまう。数度同じ現象を繰り返した後、諦めたようにその本を借りて外に出る。これも何かの縁かもしれないし1度セーフハウスに寄って読んでみようと。
セーフハウスの中に入れば賑やかな声が聞こえてくる。どうやらツァトゥグァとハヌマンがレーシングゲームをしているところだった。ハンドル型のコントローラーを持って2人の体がぐいと横に傾いでいる。
「まーた落ちたでこざる〜〜!」
「ハヌマンはこのコースが苦手であ〜るな」
どうやら勝負は終わったのだろう。声を掛けると2人は振り返ってゲームをしないかと誘ってくる。
「本を読むのであ〜るか?…むむ?」
のっそりと立ち上がったツァトゥグァが本に顔を近づける。
「この本から邪悪な気配がするのであ〜る」
「どんな内容でござるか?」
ツァトゥグァとハヌマンの二人に図書館であったことを話してから3人で隣に並び本を開く。すると薄く透けるような遊び紙を数枚挟んだ先に、過剰書きで言葉が書かれている。
■キスをしないと解けない呪い
・この本の災厄は不可抗力である
・呪いの本が何者かに見つかった際その呪いが発動し呪いの領域が出来上がる
・領域内にて選ばれし者は当人が最も愛する者と口付けを交わすことによって解かれる
・若しくは本の所有者と口付けを交わすことにより解かれる
・キスをする以外で呪いを解く方法はない
・本の所有者は愛の有無に関係なく唇に口付けを交わすことにより呪いを解くことが出来る唯一の手段である
・本の所有者を最も愛す者であっても、所有者は他の者の呪いを解くことが出来る
・呪いが発動した際選ばれたものには以下の通知が届く。
『・今1番愛している者と口付けを交わさなければ死が訪れる。
・ただしキスが出来るのは1人だけである
・1度呪いを解かれた者、解いた者は他の者と幾度口付けを交わそうとも呪いはとかれることは無い
・ただ1人不運にも呪いの本に選ばれてしまった所有者であるー呼召紗萌那ーを除いて』
▶………はあぁぁ!?
えっ!?
な、なんだってー!?
…………………………
▶な、なんだってー!?
「なんでちょっと嬉しそうなのであーるか?」
………………………
「見事に名指しでござる!」
「どこに通知が来るのであーるか?」
「通知と言えば携帯電話ござるなっ」
床に放置されてあった携帯を持ったハヌマンがそれを開くと、見事本に載っていた文面と同じメッセージが表示されていた。
「って通知来てるーー!?」
えええええええ!?
なるほど!キスしよう!
▶嫌な予感がしてきた……
……………………………
▶なるほど!キスしよう!
「わ、わ、わ。なんで肩を抱くんでござるか!?」
…………………………
「我にも同じ通知が来ているのであ〜る」
「ツァトゥグァ殿にもでござるか?」
2人がツァトゥグァのスマホを覗こうとしたところだった。
バタンと勢いよく扉が開く音とツァトゥグァのスマホが着信を知らせる音が鳴り響く。
「「「サモナ!」」」
「サモナあぁーー!」
「ハクメンちゃんであ『御館様は何処にいらっしゃるの!!??』『あぎゃじゃびえぇ!?』『我がビジネスパートナーは近くにいないのかね?』『一大事なのよツァトゥグァchan!』
▶処理が追いつかない!
………………
なんだかなぁ…
扉を勢い良く開いて入ってきたのは残りのサモナーズメンバーで、電話からはハクメンの声が漏れ聞こえてくる上にショロトルの悲鳴も響いていれば、アラクネとギュウマオウの声まで聞こえてくる始末だ。
「待つのであーる!いっぺんに喋られても訳がわからないのであーる、落ち着くであーる!」
『こっちはメチャ大変なことになっているんですのよ!?タイクーンズの幹部のアプリに愛する者と口付けを交わさなければならないみたいな通知が来たと思えば、御館様のお名前がありましたの!鵜呑みにする訳では無いけれど御館様と合法的に口付けが出来るチャンスではなくて?だからツァトゥグァ、御館様の居場所を知っているのなら教えなさいな!』
「ハクメンちゃんの言いたいことは分かったであーるが後ろがごちゃごちゃして」
『メチャ釈ですけれどここに居る皆も同じ通知が来ているの、口付けを交わすのであれば御館様が良いと』
▶(なんかバレンタインデーに似たような事があった気が………)
などとハクメンとツァトゥグァが会話しているのをハウスの中に入ってきたメンバーは息を潜めて話を聞いている。
ツァトゥグァが伺うように周りに目をやると、シロウが首を振ってバツ印のジェスチャーをする。それを見たツァトゥグァは真剣な顔をして頷きハクメンに答えた。
「今ここにサモナは居ないのであーる。見かけたらハクメンちゃんに電話するであーる」
『そうなのね…、分かりました!他の奴らに先を越されないようにめちゃ頑張って御館様を探しますわ!オーッホッホッホ!』
高笑いと共に携帯の通話が切れる。すると我慢ならないとでも言うようにアギョウが涙目でサモナの肩を揺さぶった。
「どういうことだよ!なんでこんなことになってるんだ!?」
「その様子だとアギョウ殿にも来たでござるな?サモナ殿とキスをするという通知が」
「きっ、き……そそそそ、そんなことはどうでもいいんだってば!何か心当たりがないか聞いてるんだよ〜〜!!」
「落ち着けアギョウ。まずは状況の整理が先だ」
神主の格好をしたままのトウジに促されてアギョウが離れると、皆を代表するようにシロウがサモナの肩に手を乗せる。
「いいかい?落ち着いて聞いて欲しいんだけど、愛するものと……しないと解けない呪い…の範囲があまりにも広くてだね……リョウタ」
「うん、まずは最初に青山ミッショネルズから代表してマリアちゃんが、サンタスクールからはヨウルが同じような通知が来たって連絡が来てて、それからサモナと面識のある僕の友達から同じような連絡がいっぱい来た上に、委員長の提案で同じような通知が来てる人がいれば教えて欲しいってあたってみたらあちこちの学校やギルドで君の知り合いのアプリユーザーが対象になってるみたいでざっと100人近くいるんだよね」
▶なんでそんなことにーー!?
……………(絶句)
そんなにキスしたら唇が腫れちゃう……!
深呼吸したシロウが肩を抑えたまま尋ねる。
「君に何か心当たりはないか?」
すっとシロウの目の前に例の本を差し出せば、手を離したシロウがそれを受け取り表紙を見、中身を見る。
本屋で起きた出来事を話せばシロウは眼鏡をかちゃりと押し上げた。
「聞いたことの無い本だな……。もちろん怪談で本に自身の名前が表れたりするという話もあったりするけど、かなりマイナーなものかそもそも世に出ていない本…いや、そんな大がかかりな呪いがあれば人知れず語り継がれているはずだし、ごく最近のものという可能性も…?」
「呪いがかかっているかどうかの判断も出来ていないのだろう?現にここに居るものは今のところ健常に見えるが」
「確かにそうなんだよねー。死にますって言われても実感がないというか…」
「期間も明確にされていないしな」
あまり緊迫感のないイタズラのような脅し文句と携帯に表れた通知以外には特に実害のない今、対策を練ろうにもどうすればいいのか分からず、以降沈黙が訪れる。
そんな中当事者であるサモナがずっと手を上げる。
みんながなんでそんなに悩んでるのかよく分からないんだけど
このまま放置して何かが起きてしまう前に
▶通知来た人にキスしていけばいいんじゃないの?
「「「「……………」」」」
その発言にしばし時が止まったような錯覚を覚えたサモナは何かやばいことを言ってしまったのかと困ったような笑みを浮かべて首を傾げる。
▶えっと………