高杉と万事屋の仁義なき婿姑戦争・中(高銀)「すみません。英霊志士オバZですが、銀時くんいますか?……なんだ、高杉貴様しかおらんのか」
玄関を開けると全身白スーツのバカがいたので、そのまま戸を閉める。
「待て待て高杉。短気は損気というだろう。今日は貴様の悩みを解決するものを持ってきたのだ」
「……なんだ」
「ほら。お土産のオバZ饅頭だ」
「いらねェ、帰れ」
「ふむ、なるほどな。高杉よ、お前も英霊志士にならないか?見ればわかるお前の暇さ。無職だな」
「ふざけんな、俺ァこれでもバカな格好してペンギンもどきと遊んでるテメェと違ってちゃんと稼いでるんだよ。今日は休みだ」
「ペンギンもどきではない、エリザベスだ。そして遊びではなく国事だ。そして銀時は仕事というわけか。いやぁ、寂しいなぁ高杉!だが喜べ、こうして友が来てやったぞ」
バカは優男の見た目にそぐわない馬鹿力で玄関の戸を強引に開くと、ズカズカと入り込み、勝手に台所で茶を入れはじめる。
思わず刀に伸びそうになる手を抑える。銀時との新居を血で汚すわけには行かない。そんな俺の自制心を知ってか知らずか、二人分の茶を用意すると我が物顔で居間に座る。
「ふむ、前に来た時よりも随分と食器が増えたな」
「……ガキどもが勝手に増やしやがるんだ」
「なるほど、それで貴様は苛立っているのか。銀時を独り占めできなくて拗ねているのだろう」
「うるせェ」
「だか、そんな貴様にあえて言わせてもらおう。高杉よ。貴様、子持ちと世帯を持つという覚悟が足りんのではないか?」
「俺は子持ちと世帯を持った覚えはねぇ」
「まあ。子どもがいれば、どうしたってお母さんはそちらに手がかかる。お父さんのヒエラルキーはペット以下の最下位になろうというもの」
「誰がお父さんだ」
「特にお前の場合は、相手の連れ子だからな。なかなか父親としての自覚が育ちにくいというのも仕方ないが」
「あんなデケェ子どもを持った覚えはねェ」
「貴様は夢見がちな男だからな。広告会社が打ち出しているような、北欧家具のシンプルでおしゃれな家を求めているのだろうが、子持ちでおしゃれな家など幻想だ。フィクションだ。実際にはインテリアの小物は次々となぎ倒され、障子や襖は穴をシールで塞ぐようになり、壁や床にはクレヨンや色鉛筆で落書きされ、カーペットはゲロで黄ばみ、クソダサ衣装ケースの優秀さに気が付き、タンスにはキャラものシールがベタべと貼られるのだ」
「何の話ししてんだテメェは。だいたい、アイツらはそこまでガキじゃないだろうが」
そう、大人とは言わないまでも、幼子ではない。それなのに、親離れどころか乳離れもできていないような、ベッタリ具合だ。
銀時曰く、勝手に二年間も姿を消し、随分と心配をかけたことが拍車をかけているのだろう。
「まあ、あいつらにはいろいろと迷惑をかけたしな」と、頭をかきながら言う銀時の愛おしそうなものを見つめる目に、ああこいつも満更ではないんだな、と知る。
もともと、銀時の懐にいたのはあのガキどもだ。それがお似合いだとも思っていた。
俺別に、今更そこに割って入るような真似をするつもりはないのだ。
「高杉よ、物分りのいい男の振りをしているつもりだろうが、お前は昔から0か100の男だ。銀時の目が自分に向いてないとすぐに不機嫌になって怒っていたようなクソめんどくさい男だ。……だが、そんな男がこうして大人気なくぶすくれながらも、子どもたちに銀時を譲ることを覚えたなど……成長したなぁ、高杉。俺は今猛烈に感動している」
「キメェ、死ね、殺すぞ」
煙草盆を取り出して一服する。目の前のバカへの苛立ちのためか、ひどく不味く感じる。
「別にあの街でママゴトすることについちゃ
どうこう言うつもりはねェよ。だが、朝夕と家にまで付いてくるってのは領域侵犯だろうが。二十四時間ひっついて飽きねぇのかねェ」
「ほう!貴様が!それを!言うか!」
苛立ちのままに零せば、バカが手を叩きながら大口をあけてフハハハハと笑い出す。
「村塾にいたときも攘夷をしていたときも、朝から晩まで四六時中銀時にまとわりつき、鬱陶しがられていたお前がそれを言うのか!先生にすら、〝晋助、銀時は一日八時間までです〟と窘められたお前が!」
猿のように机を叩いて笑うバカを家に入れてしまったことを後悔しつつ、俺はそのウザイロン毛を踏みつける。
笑い事ではない。
ガキの頃とは違い、今の俺はそれなりに弁えることを覚えているのだ。
だが、それでも看過できない弊害が出ているから、こうしてため息をついているのだ。
主に夜の生活について。
例えば昨夜のことである。
チャイナ娘が前々から友達とお泊まり会をするのだと言っていた日である。
俺たちは前日からそわそわしていた。
久々に誰にも邪魔されずに、布団の上で体を重ねられる夜だった。
俺は仕込みは丁寧にするタチだ。
この手で丹念にとろかせて、トロトロになったのを食うのが美味いのだ。
お互いに気持ちも体も昂ったところで、繋がり合い、さあ、これから思う存分その体を揺さぶってやろうと舌なめずりをしながら、その腰を抱え直した時だった。
バンっと襖を開けて、バカでかい白い犬が寝室に入ってきた。
「さ、定春?」
一匹で残すのは可哀想だと、チャイナ娘が置いていった犬が、ノシノシと寄ってくると布団の横に座り込んだ。
「どーした定春、お腹すいたのか?」
犬は何も答えない。
ただ、その無垢な目でじっと全裸の俺たちを見つめている。
ひたすら見つめてくる。その黒い玉のような瞳に、吸い込まれそうになる。
なんとなく、続けることのできない雰囲気か漂いはじめる。そしてーー
「くうん」
と、犬が不安そうに鳴き、その頭を弱々しく銀時の肩に擦り付ける。
「高杉……」
促されるまま、俺はせっかく挿入したもののまだ一擦りもしていないものを、銀時の中から抜く羽目になったのだ。
「どーした定春?もしかして俺が高杉に虐められてるとでも思って心配してくれたのか?大丈夫だって、ちょっと大人のプロレスしてただけだからよ」
そう言って、犬の頭を撫でる銀時の声色は優しい。
しかし、俺は見逃さなかった。
クソ犬が俺に向けた、飼い主によく似た勝ち誇ったように笑みを。
こんな真っ白な犬でさえ、この腹黒さだ。
いったいどういう教育をされてるんだ。
無言で睨みつける俺を鼻で笑うと、犬はクゥンと甘えるように、銀時の膝の上にアタマを乗せて眠った。
おい、犬。俺もまだ銀時に膝枕なんてしてもらってねェんだぞ。