人型になって仔きゅびとお出かけしたい仔蛟くん私の名前は吉田松陽。
ワケあってこの森を管理している存在ですが、細かいことは割愛します。
「おや、銀時が帰ってきたみたいですね」
玄関から感じる気配にすぐに立ち上がります。
エッホエッホ、はやく銀時をお迎えに行かなくちゃ。
玄関でギューってしなくちゃ。
銀時はワケあって私が面倒を見ている妖狐の子どもです。銀色のクルクルの髪の毛がとっても可愛い男の子です。
「おかえりなさい、銀時」
玄関をガラリと開けた瞬間、私は目の前の光景に目を見開きます。
「じょう、よ……」
銀時が、目から大粒の涙をこぼしていたのです。
ああ、私のマイスイートベイビー可愛くてキュートな子狐ちゃん。いったいどうしてそんなに泣いているのですか?
君を悲しませるものは、この私が全て駆逐してあげます。
「高杉ど……げんが、じだっ」
「え!毎日してるじゃないですか!」
思わずびっくりして銀時を抱きしめながら、その頭を1秒間に1000往復なでなでします。
「でも……ぎょうは……あいづに、おれ……ひどいごといっちゃっだがら……あいづ、おごっでる」
銀時が私の膝に抱きつき、ボロボロと泣きだします。
「うわーーん!高杉俺のこと嫌いになっちゃっだよおおお」
「そんなこと有り得ませんから?ね?地球が明日爆発することは有り得ても、晋助が銀時のことを嫌うなんてことは有り得ません!いったい、なにがあったのですかどんな喧嘩をしたんですか?」
「今日、蛟の沼にあそびにいっだんだ……」
「うんうん」
「それで、山の奥に……ぐす、ぎれいなおはなが、ざいでだ、がら……今度持っでぐるっでいっだら、蛟が不機嫌になって」
「うんうん」
「置いていかれるの嫌なのかなって、おもっで……。一緒に行ごうっで……言っだんだ。ちゃんと荷車にのっけて運んでやってるっで。でも、アイツ、荷車はガタガタ揺れるから嫌だとか、遅いとか文句ばっかり言うがら……、俺もムッとなって」
「あらあら」
「だっで、お前が陸を歩けないから仕方ないじゃんっで、ぐず……言っぢゃった……」
「まあまあ」
「うわーーーん!!蛟、めっぢゃ、がなじぞうながおしてた……!わああん!」
「よしよし。泣かないで銀時」
私は泣きじゃくる銀時のホカホカ子供体温を抱きしめます。
「ひどいことを言ってしまったんですね。きちんと謝れますか?」
「んん……」
「なら大丈夫です。きっと仲直りできますから」
「ぼんどう?」
「本当です」
しばらくそうして宥めていると、泣き疲れた銀時がうとうととしはじめます。
「一回おねんねしましょうか。そして、起きたら一緒に晋助のところにいきましょう」
「うん」
そうしてスヤッと寝てしまった銀時の涙でベタベタになってしまった真っ白大福もちもちほっぺを手ぬぐいで丁寧に拭います。
お布団を敷いてそこに寝かせつけると、銀時は瞼をふるふると震わせまています。
もうこれ以上泣いてしまわないように、と頭を撫でてから立ち上がり、私はふと窓から空を見上げました。
「はっ!空が……泣いている……。ということは、晋助も泣いています!」
エッホエッホ!
私は急いで晋助が暮らしている沼に向かいます。
「あああ、やっぱり!私のスペシャルラブリーかっこよくてクールな子蛇ちゃんが泣いています!」
「ぜんぜい……」
「ああ、晋助泣かないで……!可愛いお目目が溶けてなくなっちゃいますよ!」
沼の中でプカプカと浮かびながら、晋助は大きな涙をポロリポリと零しては、そのムチムチぷっくり頬を濡らしています。
「おれ……ぎんどぎど……ぎんどぎどぉ……」
「うんうんうん」
私はすぐに晋助を沼から引き上げると、私のお膝にのせて、彼のお話を聞きます。
「ぐす……分かってるんだ。あいつらが気を使って沼まで来てくれてるってこと。でも、おれ……ぐやじぐで……」
「うんうん」
しゃくりあげながら、晋助が小さなお口で一生懸命に伝えようとする姿に、私の胸は酷く痛みました。
「あいつにひどいこと、いっちまった……ぎんとき、おこって、もうこないかも……」
「そんなことはありません。絶対にありえません。
虚がマクドナル○の格好をしながららんらんるーを決めるよりありえません」
「ん……」
少し落ち着いてきたのか、晋助は涙を拭ってからはっきりと私の目を見ます。
「せんせい……おれも足が欲しい。銀時と一緒に、銀時の行きたいところに行きたい」
「もう少し大きくなれば、自然と変化の術が使えるようになりますよ」
「もう少しって、どのくらいだ?」
「そうですねぇ……セロリがちゃんと食べられるようになる頃ですかね」
「本当か先生!」
ガバッと晋助が顔を上げて私を見あげます。
「せロリを食べたら、足が生えるようになるんだな!?」
「………………はい!」
私は頷きます。こんななんの疑いもないまっすぐな瞳を向けられて、どうして違うと言えるでしょうか。
それから晋助はセロリを食べる猛特訓をはじめました。
独特の匂いが苦手のようですが、頑張って頑張って食べました。
お昼寝から起きた銀時が沼にやってきて、お互いにごめんなさいをして仲直りしても、晋助は頑張り続けました。
雨の日も、風の日も。カレーの日も、シチューの日も。
そんな彼の努力する姿に、銀時もメロメロ。
一緒にトレーニングしながら応援します。
そしてついに、晋助がセロリを克服したその夜ーー。
「本当はあんまりよくないのですが……頑張った教え子にはご褒美をあげなくちゃいけませんからね」
たった1日だけですが、足を手に入れた晋助は、銀時と一緒に綺麗なお花を見に行ったのでした。