白夜叉殿にキスされて修羅場に巻き込まれるモブおじ(督白)「おじさん、俺とキスしたい?」
そう言って白夜叉殿は、妖しく笑いながら俺の顎を怪しげに撫でた。
白い髪をした痩せた少年。しかし、戦場に出ればその強さは鬼神のごとく。
白夜叉とすら謳われるその強さを、俺は今まで何度も見てきたし、救われてきた。
年下だとか、子供だとか、そういったこととは関係なく、畏怖と尊敬の念を抱いていた。
そんな彼が今、妖艶な美姫のごとく色香を纏って、俺に迫っている。
緩くまとった白い夜着の隙間からは、白く薄い肌が覗いている。
「し、白夜叉殿っ、お戯れを」
ごくり、と喉が鳴る。すると白夜叉殿の指先が俺の喉仏を撫でた。
「ねえ、おじさん」
俺の顔を覗き込むようにして、白夜叉殿が熱っぽい目で見つめる。
「俺とキスしたい?」
白夜叉殿の桃色の唇が、その言葉を紡ぐ。
いつもは小生意気な台詞や下品な冗談ばかり吐く唇から、ぞくりとするほど、艶やかな猫なで声で俺を求める。
気がつけば、俺は頷いていた。
白夜叉殿はゆっくりと顔を近づけてくる。
口先が軽く触れて、離れて、啄むようにまた触れる。
それは幼子のような初々しさがあり、また玄人の手管のようでもあった。
快楽を拾うというよりも、恋人同士の触れ合いを楽しむようなこそばゆい甘さのある口付けで
、その柔らかい口先にくすぐるように噛まれれば、胸が高まり、俺の脳を蕩けさせていった。
「し、しろやしゃ、ど」
「黙って。キスできないだろ?」
白夜叉殿が俺の体にしだれかかって、口付けが深くなる。
小さな舌が入り込んできて、俺の舌先を絡め取るように吸われる。軽く噛まれて、舌の面を合わせて、また吸われてーー俺はただ、されるがままだった。
キスの合間に、白夜叉殿が熱っぽい吐息を短く吐く。その甘さにくらりとしていると、白夜叉殿の手が、俺の股間をまさぐりはじめた。
「おじさん、俺とのキス気持ちいい?」
白夜叉殿との唇とつながった唾液の糸がプツンと切れる。思わずその腰に己の手が回りそうになったその時ーー部屋の襖が勢い良く開いた。
「ひっ!」
凄まじい怒気を放った総督殿がーーそこにいた。
「何してやがる、銀時」
低く唸るような声だった。総督殿は俺を睨みつけると「ヤッたのか?」と問い詰めた。
「ヤッ、ヤッテマセン!キスだけです!」
まるで間男のような立ち位置になってしまった俺は正直に告白した。
「」
まるで毛を逆立てて吠える獣のような声だった。俺はヒイッと短く悲鳴を上げる
だが、総督殿の怒りは白夜叉殿に向けられているようだった。
「意趣返しにしては悪趣味じゃねェか」
「知るかよ浮気者。今更何しに来たんだよ」
「っ!だからアレは誤解だって何回言えば分かるんだテメェは」
「うるせえ!お前に用事なんかもうねェよ!俺はこれからこのおっさんとイイコトするんだからとっとと帰れ!」
「帰らねェしヤラセねぇ」
「離せよ!触るな!」
なにやら修羅場が始まってしまい、俺はすっかり蚊帳の外になってしまう。
厄介事に巻き込まれる前にこっそり抜け出そうとすると、
「おい」
と低い声で呼び止められる。
「テメェ、銀時とキスしておいてこのまま帰れると思ってんのか?」
「ひぇっ」
あまりの理不尽さに、俺は涙目で死を覚悟する。いつの間にかまるで間男のような立ち位置になっているが、そもそも白夜叉殿と総督殿がそんな仲だなんて知らなかったし、白夜叉殿から誘ってきたんだしいったい俺が何をしたと言うんだ......。
「銀時、暴れるんじゃねェ」
「お前も勝手に好きにすればいいだろ!綺麗なねーちゃんでもにーちゃんでも侍らせてろよ!俺も好きにしてやる!」
「ああ、好きにさせてもらう」
総督殿はそう言うと白夜叉殿の顔を掴み、口付けた。
「ん!んんん!」
暴れる白夜叉殿を押さえつけて、その口付けがどんどん深く激しくなる。
耳を覆いたくようなはしたない濡れた音を立て口を吸われ、段々も白夜叉殿の目がとろけていく。
「あ......んん」
暴れていた体はすっかり大人しくその腕の中に収まり、すがるようにその背中に手を回している。
飲みきれなかった唾液が白夜叉殿の顎を伝っていくが、そんなことも気にしないくらい、総督殿が激しくその口内を荒らしているようだった。
ようやく総督殿が口を離すと、白夜叉殿は濡れた目で弱々しく総督殿を睨みつけた。
それに対して、総督殿はその体を抱きしめながら耳元で
「俺のキスより、あっちのオッサンのほうがよかったか?」
と囁いた。
途端、白夜叉殿がぶわりと涙を溢れさせて総督殿の胸に顔を埋める。
「んなわけ......ないだろ!高杉とのキスがいい......!あのオッサンとのキスだって、本当は気持ち悪かったって......!」
え、ええええええ〜〜〜!!??
流石の俺も悲嘆に暮れる。
勝手にキスされて勝手にディスられているこの状況。
しかも逃げようとすると逃げるなと言われ、謎の修羅場の強制視聴。
いや、本当に俺が何をしたというんですか。
「しかも......俺さっきおっさんとチューしたばっかなのに、高杉まで間接チューじゃん」
白夜叉殿が悲愴そうな顔をするが、俺の言われようの方が悲愴じゃないですかね。
総督殿は白夜叉殿の濡れた唇を指で拭いながら、
「なら、俺とお前だけになるまでキスし続けりゃいいだろう?」
そう言って、総督殿が今度はさっきの激しいものはうってかわって、啄むようなキスをする。
チュッチュッと口先で丹念に丹念に愛おしそうに触れるようなこぞゆいキスは、まるで先程俺が白夜叉殿にされたそれだ。
「あ、高杉っ、ん、ん。消して、あのおっさんの感触全部.....」
「ああ、俺で上書きしてやらァ」
「はやく忘れさせてて.....」
ひしっと抱き合い、再び激しく口付け会う二人。
帰りたい。もう本当に帰りたい。
意味がわからないし、無性に切なくなってくる。
それなのにディスられることに少しばかり快感を感じてきている。いけない。このままではいけない。
今度は、総督殿はすっかり口付けに夢中になっているらしく、俺はそのまま失礼した。
その後、総督殿と白夜叉殿の被害者の会なるものと、NTRの会に入会した。