キスして赤面するきゅび(蛟九)「お前のキスって、生臭そう」
そう言ってしまったのは、若さゆえの過ちだと思って欲しい。
繊細なお年頃の、嬉し恥ずかしの大暴言。わかってる。ワンアウト超えてスリーアウト。バッターチェンジ。
なんで妖怪なのに野球に詳しいのかって?妖怪だって野球くらい知ってるぞ、バカにするなこの野郎。
……話が脱線したけれど、九尾の狐こと俺と蛟が交際することになったのは、一週間前。
ちみっこいあいつがもっとちみっこいときからの付き合いで、他人とも家族ともいえないアイツが、俺に違う形の関係性を迫ってきて、まあ、俺もいいか……と頷いた。
ちなみに、親代わりの松陽の第一声は「大人になるまではキスまでです」だった。
いや、それってどうよ。
確かに、俺も蛟もまだまだ子どもではあるけれど、そんなあけすけな言い方ないだろ?
びっくりしちゃったんだよ、俺。だって、まだ手も繋いでなかったんだもん。
だから、思わず言っちゃったわけ。
「お前のキス、生臭そう」
って。
ほんとバカだよな。わかってる。そんな事言うべきじゃなかったって。後悔先に立たずったやつの、実例だ。
蛟は何も言わなかった。怒ったり、傷ついたりすることもなく。
済ました顔で、黙っていた。
だから、俺は余計に何も言えなくなった。
いっそのこと罵ってくれたなら、謝れたかもしれないのに。いや、素直に謝れたかはわからないけれど……でもきっと、紆余曲折の末に謝ったと思う。
付き合い始めてから、蛟はよく俺の手を握るようになった。頭を撫でたり、抱きしめたり、小恥ずかしい言葉も囁くようになった。
でも、キスはしない。
何度かそういう雰囲気になったのに、しなかった。
俺はいまさらどうすればいいのかわからなくなって、気がついたら蛟とキスすることばかり考えるようになっていた。
やっぱりまだ怒ってるのだろうか?
どうやったらキスしてくれるだろうか?
本当は俺だってお前とキスしたいんだ。
お前はもう、俺とキスしたくないのか?
そんなことを悶々と考えていたある日、俺は蛟のほとりで眠っている蛟を見つけた。
いつも気難しそうに寄せている眉間のシワはなく、薄い唇からスースーと安らかな寝息をたてている。
俺はなんだか、どうしようもなくなって、こっそり蛟にキスをした。
「俺のキスは生臭かったか?銀時?」
蛟が目を開けて、意地悪そうに囁いた。
その目には、茹で上がったタコみたいに真っ赤な顔をした俺が映っていた。