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    nicola731

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    この設定のぐだおくん小話。モブ視点。

    スターボーイ アウトローぐだおくん なんとなく、あの人は恐い人のように思えた。何処の誰かはあまり知らない。会長が客として組に置いている。部屋住みではなく本当に客として。人当たりが良くていつもにこにこしてる。でもきっと俺より年上なんだろう。会長は「立香くん」と呼んで可愛がっている。兄貴分達もパシリにしない。若い先輩や部屋住みの俺達は遠巻きに見ていたが、あの人はいつもにこにこしながら俺達に挨拶したり話しかけたりしてきた。てっきり喧嘩に強いとか、まさかの殺し屋的な人かもとか、そんなことを考えていたけど、本当に普通の人だった。
     口の悪い連中はあの人を会長の隠し子だとか何だとか言っていたが、実際はもっと格上だった。彼はこの業界の中で一番有名な集団から来た人だった。ウチの人間が敵対しているデカい組と揉め事を起こした時に「俺が向こうに謝りに行ってきます」と言って、俺がパシられて買ってきた高島屋の菓子折りを持って向かった。すると激怒していたはずの相手の組長があっさりと機嫌を直してしまった。「なんだ、立香くんの友達だったのか」とウチの会長と盃まで交わしてしまったくらいだ。仲良くなって一緒に飯を食う二人に、あの人はにこにこしながら酒を注いでいた。
     あの人は多分、誰かの話を聞くのが凄く上手いんだと思う。たまたま応接室の掃除をしている時に二人きりになって、気付けばそのまま俺達はソファに座って話していた。正しくは俺が一方的に自分の人生を話していた。ゴミみたいな今までの半生を。あの人は黙って聴いてくれた。時々、押し殺したように「うん」と相槌を打って、あの真っ青な両目で心の底から悲しそうに俺を見た。俺は、俺のために本当に悲しんでくれる人はこの人以外いないのだと思った。
     あの人はきっと他の連中の話も聞いてやっているはずだから、俺はもっと一緒に話す時間が欲しいと思った。彼が何か困っていたらすぐに助けたし、頼まれたら何でもやった。眼差しだけで人を救えるあの人に好かれたくて必死だった。
     だから癌でもうすぐ死ぬと分かっていた会長は、いよいよ死ぬという時に姐さんや若頭よりも、子供や医者さえよりもずっと傍にあの人を呼んだのだろう。あの人もそれを分かっていて、隣に何の躊躇いもなく寝そべった。みんながそれを見ていた。あの人が「大丈夫だよ、俺は貴方が死ぬまでこうしているから」と言うのを聞いていた。会長が死ぬ寸前に「ぜんぶぜんぶりつかくんにあげるからねぇ」と言ったのを聞いていた。いつも笑っているあの人がとても嬉しそうに笑って、「ホント? 嬉しいな、ありがとう」と応えたのを聞いていた。誰もそれを責めなかった。
     会長はそのまま死んで、みんなが会長を羨ましがった。
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