何となく手持ち無沙汰になり、カルナは1人シュミレーター内に侵入した。そこには見知った顔が一つ。
遠くを見つめるバーソロミューの口からは白い息が吐き出され、カルナはそれを美しいと思った。
先日のレイシフトで友と呼べる程仲良くなった2人の内の1人であった。生まれた世代も性格も何もかもが違うと言うのに、一緒に居るのが苦ではなく楽しさすら覚えた。
「カルナ、おはよう。まだ早朝だよ、どうかしたのかい?」
「いや、何となく散策していたらお前がいた。……綺麗だな」
「そうだね、彼女は私の自慢の船だよ」
「いや、お前の事だ」
「んん!?ありがとう、そう直接的に言われると照れるね」
「パーシヴァルには言われないのか?」
「……まぁ、たまに会った時に社交辞令で」
社交辞令などではない事をカルナは知っていた。カルナだけではない。カルデアにいるほとんどの者が2人の間柄を察していた。
どうやらまだ2人は恋仲になってはいないらしい。ドバイに滞在していた頃から互いに惹かれ合っていたというのに。カルナは友人2人を早く祝福したかった。2人が恋仲になったとて3人が友である事には変わりがない。
「社交辞令などではないと知っているだろう、お前は。それとも、それに気付かない程の愚鈍だったか?」
「……さてね。どうかな。君達は私を讃えてくれるが知っての通り脆弱な霊基しか持ち合わせていないからね、頭の方もそうかもしれないよ?」
「お前はもっと讃えられるべきだ。誇り高く聡明でパーシヴァルとてそういったお前の事を、」
バーソロミューは困った表情を浮かべていた。
賛美に対して照れてはいるが、それ以上にパーシヴァルとの色恋を問われるのは困惑している様に思われた。
これ以上はバーソロミューを怒らせるのは歴然であったが、それでもカルナはやめなかった。
「カルナ、やめてくれ」
「やめない」
「止めろと言っている!!!」
ガチャリと音を立ててカルナにカトラスの銃口が向けられる。対するバーソロミューには槍の先端が向けられた。
「折角だ。手合わせでもするか、バーソロミュー」
「はは、君私を座に還す気なのかな?……まぁここは一つ、胸を借りるつもりでお相手願おう……かな!」
バーソロミューの海賊じみた悪どい笑みを見るのは久しぶりだった。連発されるカトラスの弾を避けながらカルナも思わず笑みを浮かべた。
パーシヴァルはお前のそう言った部分でさえ愛しているというのに。いや、バーソロミューはそれにすら気付いているのだろう。カルナは頭を振った。
「喜捨の末!!!」
「疾風の掠奪!!……君が最初にそのスキルを使う事は分かっていたよ、確率を上げられたならば、下げてしまえばいい!」
互いの武器を操り、攻撃を繰り返す。
近すぎる間合いにバーソロミューは舌打ちをし、己の愛する船の帆の先端へと跳んだ。
真上を向かされたカルナから、太陽光を模した人工光でバーソロミューは一瞬姿を消して見せた。
その隙に何度も弾を打ち込む。魔力で作られた弾はバーソロミューの魔力が無くなるまで装填可能である為、その銃撃は途切れる事はなかった。
「どうやら貴殿はまだ気付いてはいないのかな!既に包囲されていることに!!ブラック・ダーティ・バーティ・ハウリング!!!」
先程まで存在していなかった筈の海賊船が辺りを包囲している。バーソロミューの宝具であった。対するカルナも槍を構えて宝具を発動させる。
「我が父よ、許したまえ。空前絶後!……ヴァサヴィ・シャクティ!!!」
「その勝負、そこまで!!!ロンギヌス…カウントゼロ!!!」
バーソロミューとカルナ。そうして唐突に現れたパーシヴァル3人の宝具が船の中心で炸裂する。
「な、んで君がここにいるんだ!!」
「パーシヴァル!邪魔するな!!」
「邪魔?するさ、私は友が争っているのを見たくはない!」
宝具の威力が収束し、落ち着きを取り戻した3人は大声で啀み合った。
「……シュミレータルームに君達2人がいるのが表示されていて、……私も共にしたく入ったら争っていて思わず……それよりも君達はどうして、」
「方向性の違いかな」
「方向性の違いだな」
「それは……マスターが言っていた《解散するやつ》では……?」
「んふ、大丈夫、君たちとの友情は解散するつもりはないよ」
「ないぞ」
「それは良かった」
カルナは2人に向かって両手を伸ばした。
「……仲直りの握手だ」
「そうだね。カルナ。……私も大人気なかった」
「唐突に宝具展開してしまい、申し訳ない」
「うむ。……そちらもだ」
「「うん?」」
「そちらも手を繋げ」
3人で輪を作る形となった。
バーソロミューとパーシヴァルは何やら照れた様な困った様な表情をしている。その様子を見てカルナは己の考えを改める事とした。
恋仲にならずとも互いが互いの気持ちを知っている。それ以上の触れ合いを求めているわけでもその関係に名前を付けたいわけでもない様だった。今はまだ。
早急過ぎた己を反省し、カルナは2人の手を更に強く握った。そうして、クルクルと回り出した。
「なんだい!?」
「フフ、やはりお前たちは俺の大切な友だと理解出来た。ただ、それだけだ」
「ンッフフ、カルナ、真顔で言われると少し照れ臭い」
「いや、カルナの言う通りだよ、私達は良き友人を得た。そう、とても大切な……友人。そう、失うには耐え難い友人だよ」
「そうだね、……そうだな、友人だよ。何より変え難い友人。それでいい。それが良いんだ」
それ以上なんて求めてはいないんだよ、と言うバーソロミューの言葉は2人に聞こえる事なく宙に消えた。
◼️◼️
同時刻、管制室。
「アッハハハハハ!!見てゴルドルフくん!!踊ってるよ!!」
ダ・ヴィンチは眠気のあまり船を漕いでいたゴルドルフの肩を叩きながら爆笑し、その後夏のレイシフト以降気にしていた円卓の騎士と海賊の恋は今日もまた進展は無かったようだ、とダ・ヴィンチはため息をついた。
まぁ、勝手にシュミレータルームで私闘を繰り広げた事に関する罰はカルデア内の清掃一週間が妥当かな!