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    バソ命日に寄せて(パーバソ)

    私には前世の記憶があった。

    最初は自分でも厨二病を患っているのかと思っていたがそうではなかった。ただ、頭の片隅で体験した記憶が鎮座しているだけで特殊な力に目覚めたりだとか、そう言った展開にはならなかった。

    前世で友と呼んでいた人物は意外にも近い所におり、運命という物を感じずにはいられない。
    友の名はパーシヴァル・ド・ゲールと言った。
    優しく、穏やかで、側にいるだけで安らぐ事の出来る存在だった。彼の持つ快晴の空を表したかの様な瞳のせいかも知れない。
    私はその瞳を好んだ。手持ち無沙汰になれば時折じっとそれを覗き込んだ。そうすると少し照れながらパーシヴァルは笑った。
    その笑みもまた私にとってかけがえのない宝であった。


    ◾️

    私は海賊であった。海賊の黄金期における最後の大海賊、バーソロミュー・ロバーツだった。

    おおよそ300年程前の今日、私は死んだ。

    たった一撃で呆気なく死んだ。そうして海賊の黄金時代は終わりを迎えた。
    私の死後、部下たちが私の希望通り身なりを着飾り海へと投げ入れた、らしい。
    私は喉に直撃を受け即死だった為、生前その姿を確認する事が出来なかった。
    サーヴァントとなり、座に上がって初めて客観的にそれを知覚出来た。

    1722年2月10日——スワロー号からの奇襲を受けた。
    砲弾が飛び交う最中、私は戦闘員を鼓舞し命令を下した。掟により整備された武器を使い、彼らは応戦する。
    銃や刀は常に整備しておく事。これは根っから海賊業を楽しんでいた者達への掟ではなく、奴隷から戦闘員へとした者への掟であった。
    生存率が上がるのは勿論の事、勝率が上がる。勝てばお宝は我々のものだ。
    奪って奪って奪った。
    そうせねば生きられぬ世を儚んでいたのではなかった。私は単純に掠奪を好んでいただけだ。

    まだ何かこの状況を打破出来る何かがある筈だ。私はロイヤル・フォーチュン号を見回した。
    ——途端、喉元が熱くなり、私は即死したのだった。
    敵船からの砲弾の破片が喉に直撃したらしい。私は近くにあった砲台にもたれかかる様に身体を預けた。そのせいで手下達は私が死んだ事にしばらく気付いていなかった。
    酔いのせいもあったのかも知れない。私は酒よりも茶を好む為その様な失態は犯さなかったし、彼らに茶を薦めても彼らは酒の方を好んだ。
    誰しも好みというものはある。
    彼らを咎めるつもりは毛頭ないが、敵船を落とした後の宴よりも、私は静かにロイヤル・フォーチュン号と語らう方が好きだった。

    奪って奪って奪った。
    そうして最期に奪われるのが海賊だ。
    たった三年程の海賊人生であったが短く、楽しく、素晴らしい我が人生だった。

    私が死んだ事に気が付いた手下達は大声を上げて泣いた。そうして一頻り泣いた後私が好んでいた衣装を纏わせ、宝石の付いた十字架を握らせた。
    以前冗談混じりに言った言葉を覚えていた者がいたらしい。——死ぬなら美しい格好で、美しい物を持ち、美しい深海で眠りたい。確かそんな事を言った気がする。
    彼らは出来うる限り、私の希望に沿う様尽力した。
    着飾った私は海へと投げ入れられた。

    美しい最期だった。
    他の海賊達は皆絞首刑に処された。
    なのに私は海の中で眠りたいと言う希望が叶えられたのだから、随分と恵まれていた。

    手下達の泣き声を鎮魂歌として、私は深く冷たい海の底で眠ったのだった。



    ◾️

    ——そんな話をパーシヴァルにした。
    前世なんて信じてはくれないと思ったが、意外にも彼は私の話に涙を流した。
    何故泣くのかと問うと、貴方は愛されて眠りにつけたのですね、と言った。
    そうだ。船長である私が死んだのだ。身包み全部剥ぎ取って己の物としても良かった筈だ。
    だが、誰もそうしなかった。掟の事もあったのかも知れない。だが、確実に私は愛されていた。

    「今世も、そうやって死にたい」

    深く深い海の底で、私の宝に囲まれながら、愛されながら死んでいきたい。
    死にたいと望んでいる訳ではない。死に方の話だ。

    「なら、宝の一つにどうか私を加えて欲しい」
    「海は暗いよ。おまけに酷く寒い。空を灯す君に海は似合わないよ」
    「私の宝は貴方だ、バーソロミュー。前世では聖杯を探した。今世では貴方を。探し物は得意だから。……そうして、ちゃんと見つけられた。貴方が私の宝である様に、私も貴方の宝になりたい」

    君も前世の記憶があったのか、とか、前世からの友であると認識していたが海賊時代に君はいなかった筈だ、とか。
    様々な思考が巡った。だが、彼が嘘を吐いている様にも思えなかった。

    「奪ってもいいと言うのであれば、奪おうじゃないか。君の残りの人生。海賊の宝になるんだ、死ぬまで……いや、死んでも私の隣で輝いていてもらおうか」
    「ええ。貴方の品位を貶める宝には決してならない。死んでも手放したくない宝でありつづけましょう」

    まるで求婚されているかの様だ。
    実際、死後の話までしているのだ。死が2人を分つまで、とはよく言ったものだ。——いや、死んだとて共に海の底で眠る約束までしてしまった。

    どうやら、私は今世でも宝と共に愛されて眠れるようだった。

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