「バーソロミュー、最近パーシヴァル達に素っ気なくない?」
出陣前であるというのにマスターと来たら。アンデルセンはため息を付いた。
軽口大いに結構。だが、その話題と来たら大抵が、やれエミヤの飯が美味かっただの、誰それの恋模様が気になるだの、……。
今だってそうだ。先日のレイシフトにバーソロミュー、パーシヴァル、カルナを連れ立って出たらしいがどうやらそこで3人は随分と仲が良くなったんだとか。
クラスも生まれた年代も人となりでさえ異なる三人が仲睦まじいのが物珍しいマスターの気持ちは分からないでもない。
だがそれも少し前までの事だ。
レイシフトから帰ってきてしばらくは2人と仲良くしていたバーソロミューだったが次第に素っ気ない態度を取り始め、今や顔を合わせない様に努めている始末だ。
「そもそも、私は海賊だよ?混沌・悪だよ?秩序・善である彼らとは釣り合わないよ、」
「俺は貴方の事とても頼りにしてます!パーシヴァルやカルナだってきっとそうだよ!!」
真摯な眼差しを向けるマスターから目を逸らしバーソロミューはにこりと微笑んで、
「さて、そろそろ時間じゃないかな、マスター」
と無理やり話に区切りをつけた。
少し遠くの方からダ・ヴィンチの怒声が聞こえる。マスターは困り果てながら、声のする方角へと走り出しサーヴァントもそれに続いた。
おそーい!と小さな体をバタバタと動かしながらダ・ヴィンチは言った。
この場に集まったのサーヴァントは、
アンデルセン。
バーソロミュー。
「あれっ?もう1人は?」
「私さ!」
ダ・ヴィンチは言うや否や装置を使い、早着替えを行なった。
普段のヒラヒラした重厚な衣装とは違い、布面積の少ない——所謂水着の様なものへと変貌していた。レオナルド・ダ・ヴィンチ(ルーラー)であった。
「おい、ここはお前がいなくて大丈夫なのか」
「大丈夫!今回はレイシフトじゃなくてシュミレータ内にいるからね!出てくるシャドウサーヴァントはランダムだから私にも誰が出てくるのか分からないよ!マスターくんの腕の見せ所だねぇ」
「はは、まぁ君の指示には従うよ。メカクレになってくれたらもっと頑張れるんだけども」
「はいはい。また今度ね」
「おっと、これは契約書を書いてもらうべきかな。メカクレの言質は取ったからね」
「あっ……」
「俺は忙しいんだ!行くなら行くでさっさとしろ」
アンデルセンの舌打ちを合図にして4人はシュミレータ内へと移動した。
◾️
バーソロミューはカトラスを操り、難なく敵を倒していく。
その様に別段苦悩やその類のものを全く感じさせないのは流石である、とアンデルセンは思う。
殺し、奪うのが領分である海賊。
護り、慈しむのが騎士。
施し、支えるのが英雄。
彼らは本質からして違う。
海賊である事を悪びれる訳ではないが、住む世界が違うのだと共に有意義な時間を過ごすのを諦めてしまっている。ひと夏の思い出として宝箱に大事に仕舞い込んでしまっている。
別段、アンデルセンはバーソロミューと仲が良いと言うわけではない。
だが、秋口に差し掛かるにつれて円卓の騎士と海賊が恋仲になるだのならないだの、太陽の大英雄とその様な関係になるだとか、兎角そう言った賭け事が食堂で行われているのも知っていた。
アンデルセンはならない方に賭けた。賭けた《新作一本書く》の為にもどちらかと恋仲になるのは断固として避けたかった。
だが、当の本人を見てみればどうだ、それこそまるで恋する男そのものであるかの様に彼らを語る。眩しいものを見るかの様に目を細め微笑む。
なのに、一向にそれを認めようとはしない。決して恋愛感情などというものではないのだと。
「さて!休憩だー!」
「ん?ダ・ヴィンチ嬢、甘い匂いがするね」
「ふっふっふー、分かる〜?マスターくんにあげるのさ!あっ、後で渡すから内緒だよ!」
「もちろんさ」
「君は渡さないのかい?」
「はは、実はマスターから貰える事を期待して、お返しの品は用意してあるんだ」
「違う違うー!パーシヴァルとカルナにだよ!」
「えっ、いやっ、何故!?」
「何故って……君達仲がいいから?あーでも最近喧嘩でもした?」
「してないよ。でも私と彼らはほら、全然違うだろう?」
「はぁ……やれ秩序・善だの、やれ混沌・悪だのウジウジしている海賊のそのケツをもっと蹴ってやれ」
「えいっえいっ」
「痛っ!?いやっ、結構本当に痛い!」
188センチの大柄の男が小柄な2人に足蹴にされている様子は何とも奇妙なものであった。
「別に愛だの恋だの言って渡さなくてもいいんだよ。親愛を込めてもいいし、いつもありがとうの気持ちを込めてもいいし、でも勿論愛を紡いだっていい!何なら欲しかったら掠奪したっていいんだ」
「それは掠奪というよりカツアゲじゃないのか」
「んもー!細かい事はいいんだよ!」
「ふむ……戻ったらそうしてみようかな。……ありがとうダ・ヴィンチ嬢。アンデルセン。何だか吹っ切れた気がするよ」
何せ私は混沌悪の大海賊!奪う事ならお手のものさ、とバーソロミューは海賊時代を彷彿とさせる様な悪どい笑みを浮かべた。
一体どちらに強請るのだろう。アンデルセンは野暮な問いはせずにいよう、と言葉を噤んだ。
「で〜?どっちから貰うんだい?」
「俺が聞かずにいた事を……情緒もクソもないな」
「秘密♡」
「パーシヴァルだね!」
「んなっ、いや!!………何で分かったんだい」
「分かるよー!だってパーシヴァルと目が合った時の顔……マシュとマスターくんみたいだからね!親愛も恋情も友情も愛情も、全ての好意を混ぜ込んだ、そんな表情だよ」
「そうか。……そうか。あの2人みたいになれたらいいな」
「なれるさ!同じ方向を向いていなくても側にいる事は出来る。なぁ、アンデルセン。君もそう思わないかい?」
「……お手手繋いでずっと同じ物を見てるだなんてここにいる奴ら全員出来ないだろ。背中合わせで戦場に立ってる方が性に合ってる奴らばかりだ。だがまぁ、背中合わせだろうが、互いの温かみは感じられるだろうよ」
「ヒュー、さすがアンデルセン!いい事言うー!」
じゃ、私はマスターくんに渡すものがあるから先に帰ってて!ダ・ヴィンチは有無を言わさずバーソロミューとアンデルセンをシュミレータから追い出した。
「親愛を込めたチョコレート。あんな風に笑顔で臆面もなく渡せるのは羨ましいね」
「は、いまさらまた怖気付いたのか」
「まさか。狙った宝を逃す気はないよ。ない、んだけども、……照れくさくてね。笑いたいなら笑いたまえ!」
「笑わんさ。そう思い悩む様は物語の主人公の様で好感がもてるぞ」
「はは、では私が主人公の物語、書いて貰おうかな?」
「お前らがくっ付いた言祝ぎとしてなら書いてやっても良いぞ」
どの道、バーソロミューとパーシヴァルが恋仲になれば賭けには負け、新作を書かねばならない。その時の題材として使用させて貰おう。
「とびっきりのハッピーエンドで頼むよ!」
「貴様らを取材するんだ、まずは己でハッピーエンドまで直走れ。物語で満足しようとするんじゃない」
「もちろんさ!あっ、相手役はメカクレで!」
よろしく!と一際大きな声を出してからバーソロミューは去っていった。
さて。祝いの為の物語を書き始めておくか。アンデルセンは自室に帰るべく急ぎ、忙しさにため息をついた。