▪️DAY2
マーリンの悪戯と書いて、霊基異常と読む。
パーシヴァルの身に起こった異常の原因はその一言で説明がつく。
理由は本人に聞かねば分からないけれど、とにかく「愛情を注いでいれば戻る」、だなんてケムに巻く言い方はなんとも花の魔術師様らしい物言いだ。
円卓だし、許してくれるだろう!なんて言葉が今にも聞こえてきそうだ。
——愛情を注ぐ、といえば。
夜のパーシヴァルをどうしても彷彿とさせてしまう。彼は毎度毎度私の胎の中に愛情を注ぐ。何度も。そうして私は——、
やめておこう。思い出すだけで下腹部に熱が帯びてくるのを感じる。これ以上は困る。パーシヴァルに性的に触れる事が出来ないのに、そうしたくなってしまう。
▪️
「ねぇ、王子様のキスでお姫様の目が覚めるって言うじゃない?愛情を注ぐってそう言う事じゃない?マーリンだし!」
マスターは自信満々な様子で言った。確かに一理あるし、唇にキスはまだ試していない。頬に口付けるのは何度もしたが。
頬は柔らかかったし、その度にパーシヴァルが喜ぶから、つい。私は柔らかさに噛みついてしまいたい気持ちを鋼の精神で抑えている。
「ではバート。めをつぶって」
「霊基異常を浴びているのは君なんだから、瞼を閉じるのは君だよ、パーシィ」
「んー……」
彼はどうしても王子様でありたいらしい。いや、実際に生前の彼は王子様だったけども。
でも残念。今回は私が王子様役で、パーシヴァルが姫役だ。
たまには私が王子様をやったっていいじゃないか!
「マスター、下品な事を聞いてもいいかな」
「なになにー?」
「王子様はお姫様にキスした時、舌は入れたのかな」
「本当に下品だった!!」
「いや、ほら。流石にこの状態のパーシィに舌を入れるのは、ねぇ?どう思う?」
「……ぜひおねがいしたいな」
「ンッフフ……でも駄目。君が大きくなったら、ね」
「やくそく、してくれますか?」
「もちろん!」
何気ないこんな約束など、数日も経てば互いに忘れるものだ。私は満面の笑みを以てパーシヴァルに返答した。
あとあと面倒な事にならなければいいけど。
——私は意を決してパーシヴァルにキスをする。
私は王子様ではないし、彼はお姫様でもない。海賊と騎士だ。本来なら出会う事のなかった存在。
それが出会って、恋に落ちて、今に至っているのだから二度目の人生と言うのは何とも素晴らしいものだ。
マスターに使役される為に召喚されたのは重々承知している。
けれど、恋に恋するくらいは許されるだろう?
唇を離すと、パーシヴァルの身体が光りだした。
黄色い花びらが降り注ぎ、それが終わったかと思うと——腕に抱いていたパーシヴァルが重くなった。
やがて、光も消えた。
パーシヴァルは10歳位だろうか、少年の姿に変わっていた。
「ほ、ほらねー!?今日の俺冴えてた!」
「柔らかさが減った……」
「やわらかい私のほうが好みですか?」
少年へと成長したパーシヴァルは眉を下げ私を見やった。さすがに急に成長した為、一旦パーシヴァルを降ろした。
まぁ、好みの問題ではなく、希少さの問題だよ。
成人のパーシヴァルにも柔らかい部分はいくつもある。鍛えられた胸板。耳たぶ。……他にもあるが、後に少年少女がこの日誌を見ないとも限らない。記載は控えておこう。
それに成人した君は柔らかくない部分で私を内側から愛するじゃないか。それを受け入れている時点で愛されているのだと自覚してほしい。
成長したパーシヴァルは手に花を持っていた。
黄色く、大きな花。真ん中には種子と思しきものがたくさん生えていた。
花の名前には疎い為、名前は分からない。
ただ、太陽の様に眩しく、元気づけられる花だと思った。
「バート!みてほしい!ロンギヌスがすこし大きくなった!」
パーシヴァルの言葉通りスプーンサイズであったロンギヌスは今はスコップサイズにまで成長していた。
それを見せびらかせてくる様は非常に可愛い。
どうやら、パーシヴァルが成長すれば、ロンギヌスもきちんと大きくなっていくらしい。
それよりも。
気になるのはロンギヌスを持っていない方の手に握られているものだ。——どうやら、模造品ではなく、生花であるらしい。
「その花は?」
「わかりません、きづいたら持っていて……バート、この花をもらってほしい。なぜだか君におくりたいんだ」
「いいのかい?なら、有り難く頂こう」
パーシヴァルからの贈り物ならなんだって嬉しい。本人には秘密だけれど。君から貰ったものは全て私の大切なものだ。大切に保管してある。
この花も保管しておこう。
オシバナ?とか言う物にしてもいいし、プリザーブドフラワーにしてもいい。こんな大きな花を処理出来るかはともかくとして。
そう言えば、ゴッホが同じ花を持っていた気がする。
「バート、……やはり、小さなわたしのほうがよかったですか」
「そんな事ないよ。君も可愛い。本当にそう思ってるよ」
「では、昨日のやくそくを!」
「えっ?」
「その。……あなたからの口づけで、した、を……」
「まだ。まだ駄目だよ」
すっかり忘れていた。
そういえばそんな約束もしていた。危ない危ない。パーシヴァルは割としつこい。色々と。主に夜の方とか。もう!すっごい!しつこく私がねだるまでずっと、……まぁ、勿論詳細は省く。
もちろんそんな所も可愛く思っているわけだが!
「そうですか……」
「元に戻ったらいくらでもしてあげるよ」
「ほんとうに?やくそくですよ?」
そう言ってパーシヴァルは私に抱きついてきた。抱きついた、というか。しがみついた、というか。
私の腰にはパーシヴァルが絡まっている。マスターはその様子を見てニヤニヤと笑っていた。
とにかく、だ。
今のパーシヴァルはキスで呪いが解けるお姫様な訳だ。マーリンの悪戯を呪いと称して良いものか分からないけれど。
さて。
10歳のメカクレを堪能させて貰おうか。
私はそっとパーシヴァルの前髪に触れた。
彼のメカクレは私1人の内に留めておきたい。文字ですら残したくはない。私は目に焼き付ける様に彼をしばらくの間凝視し続けた。
今は、この瞼に焼きつく映像を消したくない。
続きはまた後日記す。