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    if①どうしていいかわからなかった。

    走って、走って、がむしゃらに走り続ける。

    級友たちの声、姿が脳裏に蘇る。
    常に行動を共にする眼鏡とそばかすの少年と、よく食べのんびりとした性格の少年―――親友たちの言葉。

    優しさに、心に縋りたくなった。
    だが、学園の長ともうひとりの担任からされた口留めが次の句を告げることを躊躇わせた。
    何より、口にすることが怖かったのだ。

    あのひとが、自分のことを覚えていないということを。

    口にしたら、これまでの事が無かったことになってしまうことを、居場所が無くなることを認めてしまうのではないか。

    それが恐ろしかった。


    常ならば迷いなく取る差し伸べられた手を振り払うしか無かった。






    白んだ空がすっかり明るさ得た頃、ひたすら動かしていた足はあの人を最後に見掛けた竹林へと辿り着いていた。

    「せんせい……」

    息を整えながら力無い言葉を唇から漏らし、一歩、奥へと歩みを進める。かさりと葉を踏み締める音かした。

    「土井先生…」

    再度言葉を口にする。
    祈りを込めるように、今度は名前も一緒に。

    竹林の外では陽が昇りきってはいるが、この場所ではまだ夜明け前の色のようなうっすらとした暗さが残っていた。


    辺りを見渡しても人の気配など無い。この先に行けばドクタケ城の拠点がある。
    そこにならあのひとが居るかも知れない。
    何しろ、「ドクタケ城の軍師様」らしいのだから。

    其処へ向えば良いのだろうか。自分の能力では一人で忍び込むことはできない。だからといって戦の準備をしているのであれば門番が居るだろう、正面切って入ることも難しいことは想像に易い。

    何より、あのひとに会えたとしてもどうしたい?

    巡り巡らせた思考は行き詰り、進めていた足取りがゆっくりとなる。
    最後には歩みは止まってその場に力無く蹲ってしまった。

    「先生……」

    それでも口をついて出てくるのは今一番会いたいひと。

    立ち上がらなければ、歩みを進めねばと自分に言い聞かせるが足は一向に動き出そうとしない。




    動けなくなってから幾ばくもしない内に、ふと辺りが暗くなったことに気付く。誰か来たのかもしれない。不審者かもしれなくても今は頭上げることすら出来なかった。

    「お前は何だ?」

    頭上から声が降ってきた。
    幾度となく聞いた、しかし今まで聞いたことのない低い声音。

    恐る恐る、ゆっくり顔を上げ、その姿を捉えた瞬間目を見開く。
    白の装束に身を包み乱雑に束ねられた髪は寝起きに見せる癖のある毛。至る所に生えている竹の合間から射す光ではじめこそはっきりと見えなかったが、顔も見えた。
    そのひとの瞳には自分が知っている柔らかさなど無くただ眼に己の姿を映すだけで何の感情も無い。
    それでも、その面持ちは間違いなく自分に居場所を与えてくれたひとのものだった。

    「せん、せ…」
    「私はお前の先生ではない」
    「どいせんせい…」
    「誰のことだ」

    すぐさま返される淡々とした否定の言葉。
    頭から冷水を浴びたように身体の芯から熱が引いていく。
    唇が震え次の言葉が紡げない。

    「…お前は、何だ?ここに何をしに来た。」

    暫しの沈黙の後、再び男が口を開いた。
    同じ問い掛け、ただ、その声色は先程の冷たいものではなく僅かばかり戸惑いを含んでいた。

    「先生に、会いに…会い、たかったんです…」

    その変化を感じ取ったのか先程から震え言葉を紡げず開いたままの唇からようやく掠れた台詞が零れた。
    本心だった。
    行方不明と知り、生死もわからず不安だった。
    生きていると知って嬉しかった。けど、自分の事など覚えていないことも知った。
    会ってどうしたかったかもわからない。
    否定されるかもしれない。

    けど、会いたかった。一目見て、会って。

    そこから…そこから?




    先生に出会う前なら。
    金のことだけ考えて人など信じずに生きていた時ならこんな恐怖に怯える事は無かっただろう。
    次のことを考えもせず想いだけで突っ走る事は無かっただろう。



    ――――――あぁ、なんて

    ――――――贅沢に、なったんだろう。



    弱くなった心を認めざるを得ない。
    大切な家族を、存在を。
    縋る相手を得てしまい、離れられなくなったこと。


    「先生、ぼくを、ひとりにしないで…」


    いつの間にか顔を見上げ表情が変わらない男を映しながら次の言葉を紡いでいた。

    「もう、ひとりになるのは…やだよ…せんせぇ…」

    気付かぬ内に目頭が熱くなり涙が溢れ零れ落ちていた。
    同時に落ちる大粒の涙。
    拭うこと無く頬を伝っては地へと落ちていた。

    男からの答えは無い。顔色もぼやけて見える事は無い。
    再び暫しの沈黙。

    どちらが口火を切るかはかりかねる中男が一つ息を吐いたかと思えば思いのよらぬ言葉が返ってきた。



    「…ついてくるか?」


    どういった意図なのかわからない。
    ただ、その時、「独りにならない」事だけはわかり、こくり、と迷わず頷いた。

    肯定を受け取ったのか小さく、承知したと返した男は背を向け、歩み始めようとする。

    それに付いていこうと手をつき立ち上がろうとしたがその場にへたり込んでしまった。

    「あ、れ?はは…あれ…?」

    平静取り繕おうと笑いを口にするもやはり膝が震えて立ち上がることが出来ない。
    姿状況はさておき、生きていたこと、そして今から共に行ける事が一時の安堵を産んだのか。力が入らずその場から動けなかった。
    このままでは置いていかれる。
    焦りで必死に立ち上がろうとしていたが、ふいに身体が軽くなった。
    その次にはすっぽりと自分の身体は男の腕に収まっていた。

    「走るぞ。掴まれ。」

    短くそう告げられた次には視界が変わり辺りの景色が流れ、風が耳を通り過ぎていく。
    落ちないように、いや、離れぬようにしっかりと男にしがみつき、胸元へと顔を埋める。


    一切の香りがしない、忍の懐。
    だが、生きている。
    近くに、すぐ傍に感じる大切な相手の温もりを感じそっと瞼を閉じた。
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    「医師をやっております神代一人です」

    「この番組は『明るさで元気をサポートみんなの病院』の富永総合病院の提供でお送りいたします。
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