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    if③軍師であった忍者隊を抜けてから早数月。
    城を出たはじめのうちは雨風しのげる場所を転々としていた。
    季節も月見から雪見へと代わろうとしており移動するには支障が出てくるであろうと何処かに身を寄せようとした矢先に廃屋を見つけた。森の奥に建てられていたそれは長く人が使っていない様子だった。近くの村からでも距離があり、捨て置かれているようでまさに幸運であった。ここならば暫く身を隠せる。共に逃げてきた少年と即決でその家に身を寄せることとした。

    今、その棲家で手持ちの武器を手入れをしている。
    逃げる前から持っていた刀を手に取り鞘から引き抜いた。特に斬るものも無く曇りなど無い。いつでも使用できる状態だ。再び鞘へと刀身を納め床へと置くと視線を外への出入り口へと向けた。

    昼前にアルバイトだと少年――きり丸が家を出てから数刻経った。そろそろ戻るはずだ。だが、戻って来る気配は感じられなかった。

    出かける時の彼の様子を思い出す。年相応の、日輪のように屈託ない笑顔で出ていった。

    …出会った時のしおらしさは何処へやら、きり丸は随分と逞しくなったと思う。…いや、元からそうなのだろうか。
    ある時は遠く離れた場所の銭が落ちる音を聞きつける、ある時は「タダ」という言葉に反応し駆け出して姿が見えなくなることが多々あった。

    それだけではない。今の廃屋に身を落ち着ける前からもきり丸は行く先々でいつの間にか銭を稼ぐ方法を見つけては小銭を入手し得意げに笑っていた。
    はじめこそ目立つ行動をするなと苦言を呈したが「銭が無けりゃ生きていけません!」と勢いよく一蹴されてしまった。
    一理ある上、なぜか痛み訴えてくるみぞおち辺りを擦りながら言っても聞かないだろうと諦めせめて目立つことは避けるようにとだけ約束した。

    そういえば、いつだかきり丸が自分すら巻き込んだアルバイトを引き受けてきた事があった。本人は人手が居るだの金払いがいいのだと大騒ぎしていた。さすがにやり過ぎだと思いはしたが、それよりもきり丸の振る舞いがどこか懐かしく、そして旅をはじめた最初の頃よりも生気に満ちた今の様が愛おしく無意識の内に口元が緩んでいた。
    ただ、己の様相を見たきり丸は途端に大きな目を丸くし、口を幾度かはくはくさせたかと思えば俯いてしまった。こちらが声を掛ける前にすぐ顔を上げ、にぃっと笑い普段の軽い調子で「じゃあ、頼みましたよ!」と駆けだしていた。

    このようなことがある、と改めて思う。
    きり丸は、明らかに誰かを自分に重ねている。

    "土井先生" 

    はじめて会った時に掛けられた言葉。
    確か詰所に攻め込んてきた六人組も同じことを言っていた。
    一度だけ「土井先生とは誰だ」と尋ねたことがある。
    きり丸は眉毛を軽く下げどこか泣きそうな顔に笑みを貼り付けて「先生ですよ」とだけ答えた。それ以上は何も言わなかった。

    ちりちりと胸の奥が痛む。誰かと重ねられることの苛立ちも有るがそれ以上にきり丸が見せる顔色が、胸を締め付けるのだ。
    一瞬嬉しそうな表情を見せた後、すぐそれを打ち消すように笑みが消える。落胆でも無く、ただ、「やってしまった」と後悔にも似たきり丸の反応。

    このような顔をさせるために連れ出したわけではない。
    おまえには笑っていてほしい。幸せになってほしい。
    戻ってきた時、「ただいま」と声をかけてくる。それだけで自分の中の何かが満たされるのを感じるのだ。

    と、その時家屋の隙間から冷たい隙間風が吹き刀を磨くために用意した布が飛ばされたことで思考が現実に戻された。ここ数日ですっかり冷え込んできている。ここに長居するのであれば壁を補修した方が良いだろうか。
    廃屋であるだけに、立派な寝具などは無い。道中で入手したゴザを引いて上衣を掛けて眠りについている。これからの季節、それだけでは凍えてしまうかもしれない。ともすれば物を買う金が必要で結局入用であることを認識し、きり丸の「銭が無ければ」という台詞を思い出して笑みを漏らした。

    だがその笑みはすぐ消えた。

    「遅いな。」

    陽はすでに傾いている。今までこのような時刻まできり丸が戻らなかったことはない。アルバイトを許した代わりに必ず日暮れまでには戻るようにと念押しをしていているのだ。
    何かあったのか。追手のこともあり胸の奥がざわめく。急ぎ手入れを終えた刀を携え立ち上がった。
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