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    if④アルバイトを終え、棲家への帰路を進む。共に暮らす人と約束している時間帯には十分間に合う。
    今日の稼ぎに頬を緩ませながら歩んでいる途中、少し道を外れた先に茸が生えているのを見付けた。途端、自分のセンサーが反応する。モノは何かと確かめるため直ぐ様近付く。目的の茸をじっと観察し、木から剥がして調べる。幸運だ、良い値で買い取って貰える種類ではないか。思わずガッツポーズを取り、辺りをよくよく見れば先々に茸がポツポツと生えているではないか。
    色々あって最近表に出てこなかった自分の性分がひょっこり顔を出す。
    「お、ここにも。あそこにも?」
    ドケチを自負する自分が見落としていたとは情けない。住み着き始めて間もない場所だから茸が生えているとは気付かなかったか。一応、道に迷ってはいけないと時折後ろを振り返りつつ戻る道には注意を払いながら、上機嫌に奥へ奥へと進んで行った。

    しかし、はじめこそ見つけられていた茸は徐々に姿を見せなくなった。見込み違いだったかと肩を落とし歩いていれば切岸のような斜面に行き当たりそれ以上進めなくなった。ここまでかと最後に下を覗くと少し先にある切株の処々に高く売れる茸が見え隠れした。
    「あるじゃん!」
    思わず歓喜の声を上げる。目的のモノは急な傾斜がつく手前のなだらかな場所に生えている。何とか手に入れられそうだ。早速入手するため降りようと一歩踏み出した瞬間だった。
    「!」
    踏み込めると思った地は落ち葉が積み重なったものだったようで思いの外深く足を取られてしまった。体勢が大きく崩れ、前のめりになる。支えをと傍にあった樹の枝を掴み何とか落ちるのを堪えた。
    「え、っ、うわぁあー!」
    ほっと息をつく間もなく、掴んだ枝は無慈悲にも乾いた音を立て折れた。身体の重心が下へと落ちる。その衝撃が伝わってか足場の落ち葉が一気に崩れ、がくんと身体が下へと引きずられていく。そのまま滑り台のように落ちていく最中、切株に頭をぶつけ痛みで意識が手を離れていった。


    気付けば陽が暮れる手前。飛び起きると全身と頭に痛みが走った。だが、耐えられない程じゃない。続いて立ち上がろうとしたが途端に足首に激痛が走りその場に崩れ落ちる。

    「あーあ…やっちゃった、なぁ……」

    ずきずきと痛む足首と頭を擦りながら、溜息をつき自分が落ちた傾斜の先を見上げた。大人5人分ほどあろうかという高さがある。途中、捕まる事ができる箇所もあり、登ろうと思えば登れるが、腫れが治まらない足では難しそうだ。周囲を見渡しどこかに歩いて行けば良いかとも考えるが場所がわからない。それに痛む足では動かない方がいいだろう。大きく溜息をついて壁に凭れかかった。

    「はー……」

    身体の痛みが幾分か引き始める中、何度目かわからない溜息をついた。

    「どうしよう……」

    動けない今、少なくとも今晩はこの場に居なければならないだろう。だが、まだ居ついて間もないこの地域が安全とは限らない。奥に入ったことで獣も出てくるかもしれない。
    自分の浅はかな行動から引き起こした失敗に情けなさを感じるとともに暮れていく陽と痛みがもう一つの感情を呼び起こす。

    彼に――共に逃げ出した恩師と同じ存在のあの人に、捨て置かれるのではないかという恐怖が襲ってくる。

    今回の失態は彼の目にどう映るのだろうか。
    元の人格――土井先生ならば、「何やってるんだ」と怒りながらも自分を探してくれる。諦めていた人への期待という感情を芽生えさせてくれた人。自分に手を差し伸べ引いてくれた。
    だが、今共に居るのは土井先生ではない。天鬼という存在なのだ。
    共に過ごして数ヶ月。
    はじめこそ、土井先生その人と立ち居振る舞いが、雰囲気が異なることに戸惑いはあった。
    だが、時折見せる柔らかな笑みが、変わらず彼は「彼」であると告げていた。
    元に戻ってほしいと思わないわけではない。だが、絶対に思い出してほしいとはもう思わなかった。
    共に逃げてくれた。連れ出してくれた。
    それだけで、十分だった。
    生きて、共に居てくれれば、それでいい。
    二人で共に過ごせるだけで幸せを感じるようになっていた。

    だが、彼にとって自分は何なのか。
    所属している忍者隊を抜けたということは抜け忍となったということ。
    いつ命を狙われてもおかしくなく、自分という存在は足手まといにしかならない。

    ついてきているのは自分のほうだ。
    共に居たいという願いが強く有り、離れることなど自分には出来なかった。
    今回、戻らないことで探しに来ることは無いだろう。いや、これ幸いに足手まといと自分を切り捨ててしまうのではないか。
    人というのはそういうものだ。
    わかっていた筈なのに。

    自業自得と自分に言い聞かせながらも彼に見捨てられるかもしれない恐怖がきり丸の感情を支配していた。

    「っ……」

    溜息はやがてしゃっくりのような息遣いに代わる。
    目元がじんわり熱い。

    ――情けない。悔しい。痛い。どうしよう。

    膝を抱え込み、顔を埋める。
    必死に涙を堪えながらも、無理にでも立ち上がらねばと次のことを考えを巡らせていた。
    その時――

    「…ここに居たのか。」

    頭上から声が降ってくた。
    いつの日かの淡々とした声色ではない、焦りを隠すような、しかし気のせいかホッとした色が含まれるような声だった。
    弾かれたように顔を上げると、自分が悪い想像をしていた相手――天鬼がそこ居た。その事が信じられず幾度か目を瞬かせる。
    まさか来てくれるなんて。
    はじめに湧いた感情は驚きだった。そして、今まで支配していた感情が一瞬で喜びに満たされていく。強張っていた身体から力が抜けた。目元も熱を持ちそうになったが慌てて裾で拭う。
    「何があった?」
    「あの、その、茸を……」
    「茸?」
    「茸、見つけて、儲けーって思って…」
    「……」
    我ながら情けない状況に口をもごもごとさせ言葉選び、時折薄ら笑いを浮かべながら答えると天鬼は自分の顔を覆い隠すように手をやり珍しく大きな溜息をついた。彼が感情をここまで大きく表したことは無い。呆れらることは致し方ないとはいえ、予想していなかった天鬼の反応に驚きビクリと肩を震わせた。同時に一人で居た時の不安が蘇る。このような事をして、置いていかれるのではないかという、焦り。

    「あの…っ!」
    「…あまり心配かけさせるな。怪我はしていないか?」

    きり丸が言葉を掛ける前に先に天鬼から声を掛けられた。自分の身を案ずる言葉。手が離れた顔から窺える表情から心配をしてくれていたことが伝わる。
    見捨てられていない、と理解した時途端、鼻の奥がつんと痛んだ。
    「ごめんなさい。ちょっと、やっちゃいました。」
    泣かないようにと取り繕うが、安堵と改めての自分の情けなさに涙声が入り混じりながら努めて明るい声で答えた。
    「そうか。」
    天鬼が膝をついて目線をあわせてきた。そっと頰に触れそのまま手を滑らせていく。怪我の具合を確かめているらしい。ひんやりとした指先が擽ったく時折身体を小さく跳ねさせるが、足首に触れられた瞬間痛みが走り呻き声が漏れ、直ぐ様天鬼はそこから手を引いた。
    「すまない。痛みは強いか。」
    「…ごめんなさい。」
    「手当をしないといけないな。」
    怪我を見てくれているのに詫びさせてしまった。咄嗟に項垂れ今度は自分が詫びた。


    「この上から落ちたのか。これくらいで済んだなら上々だ。…良かった。」
    きり丸の状態を確認し終え、天鬼は立ち上がり改めて辺りを見渡し状況を確認した。落ち方が悪ければもっと酷いことになっていただろう。それよりもきり丸を探している間、最悪の状況を想像していただけに怪我だけで済んでいたことに胸を撫で下ろす。

    ――無事で良かった。

    気付かぬ内に口元は緩んでいた。
    少し屈み手を差し伸ばす。
    「帰ろう。」
    自分では少し擽ったくなるような優しい声。
    それを聞いた途端それまで暗かったきり丸の表情がみるみる内に明るいものとなる。
    「っ、はい…!」
    元気よく手を取り立ち上がる。
    「帰りましょう、一緒に。」
    屈託のない笑顔で取った手を握り返したものの、足に走る痛みできり丸はその場にしゃがみ込んだ。




    結局歩くことはまだ難しいと判断し、天鬼に背負われることになった。落ちた場所から登ったり、走ったりすれば早く帰ることができる道のりもきり丸の怪我を気にしてかゆっくりと歩みを進めている。
    背負われることに恥ずかしさが全く無いかというと嘘になるが背中から伝わる体温が嬉しくしっかりと掴まっている。
    「しばらくはアルバイト禁止だ。」
    「えーっ」
    「誰のせいだとか思っている。」
    会話が無く進んでいた帰路の途中、突然天鬼から出された禁止令に顔を上げ不満の声を上げる。しかし今の状況に対する正論を指摘されてしまえば反論もできない。
    「天鬼さん、過保護ですよ。」
    「誰のせいだ。」
    唇を尖らせ不平を告げるがまたもや言い返すことにできない言葉を受ける。
    だが、彼が自分のことを心配してくれているのだと。
    まだ一緒に居られることが伝わりにやけてしまう口元隠すように背に顔を埋めた。


    帰ろう、一緒に。
    月明かりが二人を照らしていた。
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