皇宗SS/ドレスコード「これでよし」
皇紀の髪のセットを終えた宗雲は、我ながら完璧な仕上がりに満足の息を吐く。かっちりした服装には難色を示した皇紀だったが、髪型のほうはわりと気に入ったらしい。
「視界が広い」
「それは良かった」
宗雲は唇を緩め、改めて今の彼の姿をじっくり鑑賞させてもらうことにした。手を伸ばして頬に触れると皇紀は大人しく宗雲を見返し、概ね好きにさせてくれる。役得の時間で、宗雲だけの特権。前髪をすっきり上げたぶん、二つ並んだ赤い瞳がいつもよりも澄み切って見える気がした。彼の均整の取れた顔の造形が正面から宗雲の視界を彩る。
「…………」
彼の頬を撫で、指先で耳を触る。皇紀は黙ってされるがままになっているが、時折思い出したように宗雲の手に己の肌をすり寄せてくる。こんなにも人外じみて美しい男の、よく懐いた猫のような仕草を見て触っていると、宗雲の気持ちはだんだん夢心地に染まってくる。彼の美しさが好きで、普段とは違う姿を見るのも好きだ。そして、彼がこういうことを許してくれるのはたぶん自分だけなのだろう、と思うと、夢の中にはとろとろと甘くて重いシロップが注ぎ込まれて、どんどん目覚めがたくなる気がした。
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