今日も宗雲が女を口説いている。正確には、口説いているような素振りを見せている。
会えない時間寂しかった、というような言葉を本当にそれらしい口調で語り、その分今日は時間の許す限り共にいたい、というような言葉を柔らかな微笑で告げる。
皇紀は浄のいる卓にぶっきらぼうに料理を出した後、すぐには厨房に戻らずに宗雲の卓を見ていた。彼の告げるもっともらしい言葉に女は頬を染め、まつ毛を何度も激しく瞬く。宗雲はその様子に笑みを深くし、皇紀に聞こえない声で何か囁いた。彼の唇の動きと女の反応からして、多分、可愛らしい、みたいなことだろう。
「どしたの、皇紀さん」
通りすがった颯の声がけに振り返る。言葉にするのがあまりにも面倒くさく黙っていると、颯は小刻みな歩調で近づいてきていたずらっぽく声を潜めた。
2766