転生水木くんが鬼太郎と再会した話とこれからの話○月○日(晴)
今日はびっくりすることがあった!柔道のけい古から帰るのがおそくなってしまったんだけどがい灯が切れてやがって、帰り道がいつもより暗くてちょっと…べつにこわくないけどちょっとだけいやだなと思ってたら、とつぜん明るくなってびっくりした。そしたら青っぽい火が空中にあらわれた。すごくびっくりしたけどなんかべつにこわいとは思わなかった。なんでかは分からないけど。それで、その火がおれをじっと見てたからおれも見かえして、つるべ火か……って言ったらニコッと笑った。つるべ火は図書室のようかい図かんで見たからしってたけどカオがあったのは知らなかったな。図かんの絵にはカオはなかったから。つるべ火はどうしてか知らないけどやたらうれしそうにニコニコしてた。そのまま家まで明るくしてくれてた。ありがとう。でもなんで親切にしてくれたんだ?
○月☓日(くもり)
また今日もおそくなった。そしたら帰り道へんなやつがついてきた。柔道習ってるのになさけねーけどアイツ大人でおれよりめちゃくちゃデカかったからとりあえずにげた
走ったけどおいつかれそうになったしだめかと思ったけどそしたらかみでかお半分かくれた男のひとがたすけてくれた
すこしこわかったけどよかった。
あのひとなんでかわかんねーけどおれ見て泣きそうになってた。なんでそっちが泣きそうになってんだろう?
こわかったねって頭なでられた。なんかすげーいわかんあった。
○月△日(雨)
かーさんにヘヤのそうじされてこれみられた。かーさん泣いてた
またおそくなるならダメって、もうけい古行かせてくれないかもしれない。イヤだな。おれはだれかを守れるくらい強くなりたいのに。
△月□日(晴)
かーさんが心配しょうになった。帰るのおそくなるとおこったり泣いたりする。おれべつに平気なのにな。
そういえばまた、この間たすけてくれたにーちゃんに道でぐうぜん会った。大丈夫だって言ったのに家の近くまで送ってくれたけど心配されてるのかな。
たすけてくれた時におんぶしてくれた(おれは歩けるって言ったのに)時も思ったけどこの人すげーやせてるのになんであんなに力があるんだろう?どー見てもきん肉ねーのに。
でも何でか分かんねぇけどこの人が細せーのイヤだな。もっと食って肉付けて欲しいって本人に言っちまったらいきなりだまったまんま真顔で泣き出してびっくりした。よその年上の人を泣かせたのはじめてでビビった…
△月☓日(くもり)
さいきんようかい?っぽいのに会う気がする。会うって言うか見るって言うか分かんないけど。今日は空を白い布がとんでた。あれって一反もめんかな。本当にペラペラなんだな!つるべ火はあれから見ない。あんまり夜おそく外にいなくなったからかも。
あとなんでかネコもよく見る。ネコはかわいいな。
あとにーちゃんもよく会いに来てくれる。あいかわらず心配されてるらしい。もう大丈夫なんだけどな。それにしてもゲタ吉って名前聞いた時にそんな名前だった?って思ったの何だったんだ?それ口に出して言ったらかりの名前なんですって言っててまた泣かせちまったし。もう泣いてもビビらねーぞ。でもアイツ泣きすぎだろ。
でもなんでかりの名前なんてあるんだ?おかしいの。ホントの名前教えてくれねぇかな。
☓月○日(晴)
また柔道習って良いって!おれがへんなやつに好かれやすいならそいつら全員ぶん投げられるように強くなる!って言ったらわかったって。やった!だれより強くなってどんなデカい相手でもせおい投げしてやるぜ。
最近しせん?みたいなの感じるし。気のせいだろーしこんなのかーさんには言えねぇけどな。
かーさんといえば急にスマホ買ってくれた。今までダメって言ってたのにどうしたんだろうな。
□月□日(雨)
入院してた病院から帰ってきた。いてぇ。ムカつく。しばらく学校もけい古も休みだ。
前より柔道強くなったけどいきなり背後から刃物出すのはズルいだろうが。『ぼくといっしょに死のう』じゃねーよ1人でかってにやってろ
おれはどうしてこうおかしな奴を引き寄せるんだ?ヘンタイでストーカーって言うんだって母さんとけいさつの人が怒ってた。また母さん泣かせちまった。
でもあぶない所をギリギリで鬼太郎がまた助けてくれた。
顔と耳にまた前と同じ傷出来たけど死んでないからまだ良かった。なのに鬼太郎は間に合わなくてごめんなさいって、また悲しませてしまった。アイツがあやまることじゃねぇのにな。
それに、何でか知らねぇけどおかげでなんとなく思い出したし。
今から思うと昔からみんなで見守っててくれたんだな。おれが気付いたり会ったりしたみんな以外も、かくれて守っててくれたんだな。ありがとう。
でもちょっとばかり気はずかしいな。
☓月□日(雷雨)
全部思い出した。
こんなのは今まで思い出してなかった今までは親子としての記憶しかなかった
穴があったら入りたい
「うわっ」
近々引っ越しをする予定が出来た。その為に部屋の荷物を片付けていたら、押し入れに仕舞い込まれていた怖ろしく懐かしいものを見付けて水木は思わず声を上げてしまった。
一冊のノート。
所有者からも忘れ去られて月日が経ち、すっかり草臥れてしまったそれは、小学生の頃、水木が書いていた日記だ。
勿論小学生男子が毎日しっかりと書いていた訳ではなく、何か面白いことがあったり……何か抱えたものを吐き出したくなった時になんとなくペンを取っていたような覚えがある。
鉛筆で殴り書いてあったり色付きのペンで少し丁寧な筆跡であったり、その時の気分でページの様子は様々だ。
確か当時はスマホなど持っていなくて、勿論SNSもやっていなかった為にそのような事をしていた……と思う。大人になった今の方がむしろ、SNSはアカウントはあるが暫く見てすら居ないといった状況なのだが。
「あー……。この時母さんがスマホ買ってくれたのって、GPS……だな。ふはっ、懐かしい。…………」
パラパラ中身を確かめる水木の眉間に、段々とシワが刻まれて行き、ついには『ハーーー…………』と深いため息がこぼれた。
「捨てよう」
そうしよう。ぎゅっと拳を握り締めて水木はそのノートを部屋の隅のゴミ箱に投げ入れようとして……動きを止めた。
「……」
もう一度、ページを開く。
気になった辺りを読み返して、また閉じた。
「……。持って行くか……」
ゴミ箱に投げ入れられる運命だった筈のそれは無事にその命を永らえ、『新居に持ち込むもの』リストのメンバー入りを果たした。
あの時の自分はどんな顔でこれを書いていたのか。怒りかはたまた恐怖に震えていたか、泣きそうな顔をしながら、だったか……。
ノートに向き合っていたこの頃から10年近く年月が経ち、今の水木は既に成人を迎えている。
あの時よりも身体も、多分心も成長している筈なので……当時と同じ状況に陥ったとしても今度は犯人をマジで返り討ちにしてやるから何ならここに出て来いよリベンジだリベンジ、……等と据わった目で片方の口角を上げる。
もしそんな事を実際口に出して彼に話そうものならば、何を言うんですか貴方は人間なんですから危険な事はやめて下さいと滾々と説教をされるのは分かりきっているので心の内に留めておくのだが。
兎に角、あの頃を思い出すと今でもまぁまぁ腸が煮えくり返るし、染み付いた恐怖はその後しばらくの間彼を苦しめた。水木は、思わずノートを持つ手に力を込めてしまい、その端をクシャリとしてしまった。
「っと、ヤベェ」
神妙な面持ちで、皺になった紙を手のひらで撫で付けて伸ばしていた時、水木の部屋の窓からコンコンと小さくノックの音がした。そしてその後すぐにカラリと小さな音を立てて窓が開く。
「水木さん」
「鬼太郎!」
振り返るとやはりそこにはかつての自分……前世の己が慈しみ愛した義息子、そして恋人であった鬼太郎の姿。この日記に書かれていた当時は大人の姿に擬態(??)していたようなのだが、水木に正体を知られた今となっては元の子どもに近い姿で会いに来ているらしい。
幽霊族のメカニズムは未だによく分からんな、と長年彼らと過ごした水木とて思ってしまう。
「鬼太郎……お前、窓から来るなといつも言っているだろう。確かに下には母さんがいるから玄関から来辛いのは分かるが、ご近所さんに見られでもしたら」
「夜だから平気ですよ」
今はとっぷりと日も暮れた夜21時。お化けたちがそろそろ活発になってくる時刻である。
「そういう貴方こそ、窓の鍵を開けっ放しにするなといつも言っているでしょう。危険ですよ」
「そこから入ってきたお前が言うか?……はは、まあ良い」
いらっしゃい鬼太郎、と水木は鬼太郎に笑う。過去世の記憶を完全に取り戻してからとなっては、色々な意味で愛しくて仕方ない子。
「こんばんは、水木さん。今夜は良い夜だ……荷造りは順調ですか」
「う、それが中々な……」
「?それは」
鬼太郎が、水木の手にあったノートを見つめて尋ねた。
「ん、ああ……ガキの頃書いてた日記……みたいな奴だ。お前と再会した時のことも書いてあったよ」
「へぇ、見ても良いですか?」
えっ!?と叫ぶ様な声を上げた水木は、咄嗟に背中に手を回し、ノートを隠した。
「どうして隠すんです」
「恥ずかしいからに決まってるだろ!?あっ!うわお前髪は卑怯だぞ!」
隠したそれは、シュルルと伸ばされた鬼太郎の髪によって呆気なく確保されてしまった。ズルい!返せ!と喚いていたら、階下から母に『ちょっと、電話でもしてるの?声大きいわよ』と嗜められてしまった。ごめん!と声だけで返した水木は、自分よりも下にある鬼太郎の顔をジロリと睨む。
対する鬼太郎はシレッとノートを開き始めていた。
「あー、もう本当勘弁してくれ……」
と言いながらも水木はそれ以上止めようとしなかったので、鬼太郎は該当箇所を中心に文字に目を走らせている。
「……今読んでも犯人、許せません」
「まぁそりゃあ俺もだが。……アイツ今どうしてるんだろうな……」
あれ以来水木は犯人に遭遇する事は無かった。有罪判決を受けたのは知っている。実刑を喰らったのも。でも既に出所しているのであろう奴のその後に付いては、水木は知らないままであった。もしかしたら母などは知っていたのかもしれないが。
小さな呟きに近い大きさの声だったが、鬼太郎にはしっかりと聞かれていたようで、じいっ……とその大きな右の目で水木を見上げて来た。そしてニタ、と僅かばかりの笑みを見せた鬼太郎が言う。
「……さあ?」
あっコレはこれ以上聞かない方が良い奴だな?
水木はそれ以上この話を広げるのを止めた。
十中八九ロクな事になってないのだろうな……というかお前達何かしたか??などと聞いてはいけない。
「と、とにかくソレ、もう返せ」
「あ、はい」
気が済んでいたのか、今度は素直にノートを返してくれた鬼太郎の頭を昔の癖で撫でたら、複雑な表情をされてしまったがなんだか満更でもなさそうだった。
と思ったら、唐突に鬼太郎がまた水木の顔を覗き込んでそう言えば、と言ってきた。
「この時からですよ」
「何をだ?」
水木の左手を、鬼太郎が同じく左手でぎゅうっと握った。次に伸ばした鬼太郎の右手は、水木の左目に……あの時付いてしまった傷跡に指を這わせた。
「……ッ」
「僕が、今回の人生の貴方の伴侶にならなければならない……と決めたのは」
「なっ!?……は、伴侶!?」
そうですと鬼太郎は神妙に頷く。対して水木はかあっと顔を赤くし、あわあわと慌ててしまった。
何を言い出すのだこの子は。
「出来るならば、現代で言う……所謂事実婚とは違う、戸籍からしっかりと貴方を僕のものにしたいな、と」
「戸籍……」
「僕が産まれた時に水木さんがどうにかして登録してくれたから、僕一応戸籍あるんですよね。その節はありがとうございます」
「とんでもないです……いや、待て」
「今の法律だと……そういった制度がある場所に住むか、養子縁組をするしか無いようですが、養子縁組だと年齢的に今回は僕が貴方の父となりますので……」
「うーん違和感が……じゃねぇよ!待てって言ってるだろ。あの時に決めたって何なんだ?俺と結婚するってことをか!?」
「そうですよ」
何を当たり前のことを……と言わんばかりの鬼太郎に、水木は頭がクラリとする思いだ。
「ど、どうして俺がガキの頃から交際をすっ飛ばして結婚……それも正式なって……」
水木とて、今回も鬼太郎と添い遂げたいとの思いはある。しかも強く強く持っている。しかし生涯を共にするのに鬼太郎が『正式な』形に拘るのは何故だろうか。
一緒に居るだけでは駄目なのだろうか?
「だって、あの時もあったんですけど……人間の病院って『正式な家族』でないと立ち入れない場面があるのですよね」
「……あ」
「貴方がこの傷を付けられたあの時。病室を訪ねたら、今は家族以外は面会禁止なのだと言われまして」
「……来てくれてたのか」
「えぇまぁ、結局それで帰ってしまったのですけど」
「ごめんな」
「いえ」
夜にでも忍び込むのは簡単だったけれど、それはしないでおいた。当時は理由なんて考えてもいなくて、なんとなくだったけれど。
「それで思ったんですよね。水木さんとちゃんと家族になれば、この先……」
考えたくもないですけれど、と言いおいてから鬼太郎が水木の目を見詰める。
「貴方はやっぱり人間だから……貴方にまたもしものことがあったら、勿論僕が守ります。守りますけど、……病気、とかもありますし」
「うん。そう簡単にくたばるつもりは無いが、こればっかりは分からんからな」
「また『面会は家族だけ』とかだったらって思ったら……」
「……うん」
断られればやっぱり忍び込めば良いのだ。彼には、彼らならそれが楽々出来ようが。
でも、出来ることなら誰に憚ることなく家族として、と。
「だって、貴方はまた……僕たちと同じ存在になってはくれないのでしょう?」
「…………」
「だとしたら、どうしても貴方は」
先に。
水木が鬼太郎の小さな体を力いっぱい抱き締めた。
ああ、この子は未だにこんなにも全力で己を愛してくれている。
好きだ、好きだ。愛おしい子。
「鬼太郎」
「はい……?」
「結婚しよう。お前がどうしても正式なものに拘るってんなら、俺が立場上は息子でも構わん」
「……はい!?」
「なぁに驚いてやがる。言い出したのはお前だ」
「そ、そうですが」
「ただなぁ」
水木が悪戯っぽくニヤリとした。
「この年じゃ無理だから少し待て」
「えっ、でも水木さんはもう成人で」
水木は今年で18歳になった。現行法では成人となり、婚姻は可能である。養子縁組は年齢は関係ないけれど、その実は婚姻となれば水木の意識的に成人後に拘るのは分かる。
だがなぁ……と水木が苦笑した。
「学生結婚はちと嫌なんだよな。だからな、俺が大学を無事卒業するまで待っててくれ」
「それって」
あと4年……?
水木はこの春大学へ進学し、渋る母を説得し実家を離れ一人暮らしをする予定で、現在その準備に追われているのだった。
今度1年生……と言うことは最低4年……。
まあ良いですけどね、4年くらいは待てますけどね。でも貴方がこの手に入るのだって思ってからの4年は……
ブツブツ文句を言っている可愛い旦那様の頬に、ちゅ、とキスを落としてやる。
すると少し頬に朱が走るのが愛らしい。
「まあ気長にな、待っててくれよ旦那様。留年しねぇようにするからさ」
「ちょ……頼みますよ?」
僕のだと主張するみたいにぎゅっと抱き締めて来た鬼太郎を、水木も力いっぱい抱き締め返したのだった。