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    べーてん

    @Beiten_10

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    べーてん

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    多分捕虜ifのスタヒト

     ある日の夜、重苦しい空気の中で、ヒトラーは微かに震えた指先で、扉の鍵穴に細い針金を差し込んだ。

    ──今日こそ、こんなところから逃げ出してやる。

     そんな固い決意を胸に、鍵穴を慎重に探る。金属が金属に触れる小さな音が、とても大きく聞こえた。
     やがて、カチャン、と音が響いた。扉の錠が外れたのだ。思いのほか大きな音がなってしまったが、もう後戻りはできない。
     ヒトラーは意を決して、扉をそっと押し開けた。部屋を抜け出し、寝静まった衛兵の間をすり抜け、廊下を駆ける。その瞬間。

    「どこに行くつもりだ?」

     背後から、冷徹な声が彼を刺した。振り向く間もなく、大きな手がヒトラーの肩を掴み、容赦なく壁へと叩きつけた。

    「ゔっ……!」

     鈍い衝撃が頭に響き、視界が一瞬白く霞んだ。痛みと共に、意識が揺らぐ。目の前に立っていたのは、スターリンだった。彼は彫刻のように無表情だったが、その目には底知れぬ闇が宿っていた。

    「ふん、随分安っぽい脱走劇だな。」

     スターリンは鼻で笑い、嘲るような口調で続けた。

    「いつも言っているだろう、逃げるなと。私の言葉が分からなかったか?愚か者め」

    「やめろ!離せ……!」

    「黙れ」

     抵抗しようと掠れた声を上げるも、スターリンが片方の手で無造作にヒトラーの口を塞ぎ、言葉を封じ込める。
    やがて、スターリンはヒトラーの足に目を落とした。

    「もし、次逃げようとしたら……」

     口を塞いでいない方の手でヒトラーの太もものあたりを撫でながら、低く冷ややかな声で続けた。

    「これ、切り落とすからな」

     ゾクリとするほどの静けさで発せられ、ヒトラーは思わず身を引いた。言葉とは裏腹に、その手つきは異様なまでに丁寧で、優しさすら感じさせた。しかし、その優しさが逆に不気味で、鉄の棒で殴られたりするよりも、遥かに恐ろしかった。
     スターリンは口元に冷たい笑みを浮かべた。

    「分かるな、アドルフ?」

     冷や汗が背を伝い、体が震え、心は締め付けられた。口を封じられているため声は出せず、ヒトラーはただスターリンを睨みつけながら、小さくこくりと頷くことしかできなかった。

    「いい子だ、最初からそれくらい素直だったらよかったんだがな」

     スターリンはヒトラーの口元から手を離して言った。

    「ほら、早く戻れ」

     憤怒と屈辱、そして逃げられなかった自分への自己嫌悪が頭の中で渦巻く。ヒトラーはスターリンに連れられ、無言で部屋へと戻った。





     ヒトラーはベッドの縁に腰を下ろした。冷たい空気が肌を刺す。彼は大きく息を吐き、わずかに肩を落として言った。

    「……おい、なんでついてきてるんだ。消えろ」

    「そう睨むなよ、アドルフ」

     スターリンは当然のように部屋に入り、当然のようにヒトラーの横に腰を下ろす。日常の雑談のような軽い調子で話し出すその態度が、まるで挑発するかのようで、ヒトラーの神経を逆撫でした。

    「まるで私が悪いことでもしたみたいじゃないか」

    「実際してるだろう!」

     ヒトラーは顔を上げ、怒りを込めて憤りをぶつけた。

    「私を閉じ込め、侮辱し、今度は足を切ると脅すとはな!」

     スターリンは真顔で首を傾げる。

    「脅しだと?本気だ、私は」

     淡々とした口調と揺らぎのない目に、空気が一段と重くなる。ヒトラーは言葉を失い、目を逸らした。その顔を、スターリンはじっと覗き込み、笑みを浮かべる。

    「ははは、いいな、その顔。もう少し堪能したい」

    「……貴様、本気で頭がおかしいのか?」

     静かな声で返すヒトラー。その声はもはや怒りではなく、呆れと恐怖が入り混じったような不安げな響きを帯びていた。
     スターリンははっきりとした口調で言った。

    「おかしいのはどっちだ?民族の選別だとか、生存圏だとか、戦争をふっかけてくるとか、馬鹿げたことをしたのは誰だ?」

    「馬鹿げてなどいない!」

     ヒトラーの胸の内が複雑に揺れ動き、声が反射的に強まる。

    「私の行いには意志があった!理想があった!」

    「それを正当化と呼ぶんだ。悪党のな」

     スターリンは冷たく言い放った。何かを言い返そうとしたが、ヒトラーは口を閉ざし、睨み返すことしかできなかった。

    「だからこそ見届けてやる」

     スターリンは笑みを浮かべながら言った。

    「お前が自分の過ちを認めて命乞いをする、その瞬間をな」

     拳が震える。怒りからなのか悔しさからなのか。自分でもよく分からない感情に押しつぶされそうになりながら、ヒトラーは奥歯を噛みしめ、吐き捨てるように言った。

    「チッ……くそったれが……」

     薄暗い部屋の中、二人の間に張り詰めた緊張は、しばらく続いた。
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