雨 パイルダーの外からの音が海動の眠りの邪魔をした。どうやら夕立のようで先程までの静けさから打って変わり激しい雨が叩きつける。
「起きたのか」
オート操縦で計器を眺めていた真上が背後の気配を感じ振り返る。
「今どの辺飛んでんだ?」
欠伸をしながら海動はモニターを小突くように操作し始める。
「熱帯エリアに入った所だ、あと10分ほど北上すれば合流地点に着く」
「どおりで。いくら頑丈なパイルダーでもよちと心配になるぜ、由木には?」
「経過報告は済ました」
「お前には小言ないんだよなアイツ」
シートに深く身体を沈め、眠りに入る前のことを思い返す。なんだっけなとフロントガラスに目を向ければスコールの降りしきる外にガラクタが散らばっていた。今回の出撃はカイザー無しの生身での潜入作戦だったため二人が生み出した物ではない。それ以前からあったであろう残骸だった。
先の大戦時に多くの天地異変が起こったという、地図上の国境も自然も建設物も何もかも変り果ててしまい所によっては環境の激変で人の近寄れない場所もあるらしい。
残された遺産とも言えなくもない、先人は文明の他に厄介な爪痕も残していく。
このエリアなら水源もたくさんあり雨も降る、作物もたんと採れそうだな、穀物に芋に野菜もそしたら酪農だって…そうだそんなことを考えていたんだった。あの荒地の関東は地下水脈に頼りっきりだった、地表では未だ多くの廃墟が土地開発の邪魔をしていて農地にもできやしない。
「あの砂漠もこんな雨降ったら少しは変わるのか」
「…?進化してきた環境が突然変わったら殆どの種は適応する前に絶滅していくと思うが?」
「何言ってんだ?」
「お前が言い出したことだろう」
お互い顔を見合わせながら首を捻る。まあいいかと手を伸ばしたボトルは空だった。
「てめえ全部飲みやがったのか!」
「海動、積荷を軽くしたのは誰だったか?」
外のスコールの大降りとは違って乾いた口からは何も出やしなかった。