巨人学の研究者であるハンジ・ゾエは己の身体の限界を感じ始めていた。
　彼女はエルディア人でありマーレの戦士だ。巨人化の能力を継承し、あと数ヶ月で13年を迎える。
　

　巨人化の能力を得た者は、継承後13年で命を終える。これは、始祖ユミルが力を得てから13年で亡くなったという伝承に由来するものだ。
　そして巨人化できる人間には限りがある。エルディア人やユミルの民と呼ばれる人種の者のみが巨人になれるのだ。
　大昔には我が愛国マーレを負かし絶大な力を誇っていたエルディア帝国は今となってはその面影はもうない。巨人の力を掌握したマーレはエルディア人を収容区の壁に閉じ込め差別し、支配していた。
　そして、巨人化能力を有するエルディア人はマーレの戦力となっていた。「マーレのために戦い、己の身も心もすべて捧げることで、かつて我々が行った大虐殺の罪を償える」
―そのような文言のもと、エルディア人は理不尽な差別や暴力を受け入れてきた。


　ハンジはマーレにあるエルディア人収容区で生まれ、もう直ぐで二十代後半に差し掛かろうとしていた。少女だったあの時、戦士としてマーレに忠誠を誓ったハンジは13年の誓約の元巨人の力の研究に没頭してきた。その13年ももう直ぐ終わりが来ようとしている。研究に没頭するあまり家族や仲間達には大きな迷惑をかけたことは少し心残りだが、研究では成果を出せ最後の発表さえ終わればもう心残りはない。そう思っていた。

「おい」
　声が聞こえたのでハンジは振り返った。声の主はリヴァイだ。
「やぁリヴァイ。珍しいね、私の研究室に来るなんて」