転生パロもんけま(記憶アリ×ナシ)「留、余所見してたらはぐれちまうぞ。ぼさっとしてないでついてこい。」
「あーもう、分かってるよ。」
「なんだ、りんご飴が気になるのか?高校生になったとはいえ、まだ舌は子供なんだな。」
「うるせえよ。俺はりんご飴を食ったことがなかったから、ちょっとばかし気になっただけだ。」
へえ、お前ならりんご飴なんて飛びつきそうなものなのに、意外だな。文次郎はそう言いたげで、不思議そうな顔をしている。
「小さい頃、母さんにここの祭りに連れてきてもらったことがあったんだ。たまたま目に留まったりんご飴が幼心にすごくきらきらして見えてな。」
俺は3人兄弟の末だったから母さんは普段は当時中学生だった兄さんたちの世話で手一杯だった。漫画を読んだり友達と遊んだり、母さんに迷惑をかけないよい子の留三郎くん(10)は少し寂しかった。でもその日ばかりは兄たちが部活の合宿に行っていて、母が自分ひとりだけに構ってくれるのが嬉しくて、ついわがままを言ってしまったのだった。
「買ってくれーってごねたんだがもっと美味しいものがあるとかで結局食べられなかったんだ。そのときのことが妙に記憶に残ってて……。」
「ふん、なるほどな。」
困った母さんがりんご飴の代わりにと渡してくれた桃色のわたあめ。りんご飴よりも大きくて、ふわふわ甘いそれにすぐ夢中になった自分を、我ながら単純なヤツだと懐かしく思う。
「なんだ留、優しい文次郎お兄ちゃんにりんご飴奢ってほしいんなら素直にそう言やいいのに」
「ハ!?!?いや、そんなんじゃねえし!!」
「わかったわかった。買ってやるから愚図んなよ。」
自分はもう高校生だからそのくらいお小遣いで買えるしそもそもりんご飴が食べたいという話ではない、ただ幼い頃の思い出に浸っていただけだと説明しても文次郎のアホは全く聞く耳を持たない。いつの間にか人混みの中をすり抜け、りんご飴といちご飴を手にして屋台の裏に立っている文次郎にがっくりした。しかしわざわざ買ってきてくれたものを受け取らない訳にもいかず、大人しくりんご飴を頬張る。
「どうだ、優しいお兄さんに買ってもらったりんご飴は。うまいか。」
「うーん…………。思ってたよりリンゴそのまんまだな。確かにこれなら、母さんがりんご飴を買ってくれてたとしても微妙な気持ちになったかも……。」
りんご飴は幼い俺が想像していたのと少し違っていた。さすが母さん、俺のことをよく分かっている。
「おい、奢ってもらったのにそれかよ。可愛くないやつだな。」
「おーおー、可愛くなくて結構だ。つかいい加減その年上ヅラやめろよ。」
お前が俺に年上の顔してるの、何となく気恥ずかしいんだよ。
小さく呟いた俺の声をかき消すかのように、破裂するような爆音とあられが散るような音が続けて辺りを包み込んだ。見上げると、光の玉が夜空を覆い尽くすように視野いっぱいに広がり、残滓を煌めかせながら時間をかけて消えていく。
お前俺に何か言いかけてたよな、と言う文次郎を適当に誤魔化し、
「なあ、俺花火見るのに最高な秘密の場所知ってんだ!教えてやるからこっちこいよ!!」
とその手を引っ張る。急がないと花火が終わってしまうからと裏山の小道を駆け上がり、人気の無い神社にある滑り台のてっぺんを目指す。
肩で息をしている文次郎がなんとなくつまらない。
「この程度の山で息を切らすなんて、鍛錬を怠っていたんじゃないか。」
「山登るなら先に言え。俺はもうしがない会社員なんだ、ちっとは加減して走ってくれよ。」
あれ、なんで鍛錬とか言い出したんだろう。俺文次郎が運動してるところなんて見たことないはずなのに。
鮮やかな花火が夜空一面に咲き乱れ、俺が感じた違和感とともに静かに消えてゆく。きらきらとした火の粉が今にも降ってきそうだ。横に目をやると、なぜか花火ではなく俺を見つめていた文次郎と目線がぶつかった。