心恋「大瀬さん、具合悪いの?ご飯全然食べてないけど……」
「もう、大瀬さんちゃんと寝なきゃダメだよ。また隈が酷くなってる」
「体調大丈夫?ハーブティーいれたけど飲む?ツラいんでしょ?」
頭の中に浮かんでくるのはここに来てから自らを奴隷と称し、人に尽くすことを生きがいとしている彼から自分に掛けられた言葉達。こんなクソにも優しくしてくれる彼をいつからか好きになってしまっていた。
でも、自分みたいなブスでクズで人の役にも立たない人間がいおくんのことを好きになってしまうなんて犯罪的行為だ。いおくんもこんな奴に好きなんて言われても嫌だろう。もしかしたらショックで死んでしまうかもしれない。そう思ったからこの気持ちは墓場まで持っていこうと決めたのに。
「え……い、おくん……?」
「大瀬さんは優しいだけの人は嫌い?やっぱり猿ちゃんみたいに強くなくちゃダメ?ふみやさんみたいに一緒に楽しめることがある方が良い?」
二人きりになった平日の昼間、普段のようにリビングのソファでぼーっとしながら話しをしていたはずなのにいつの間にか依央利に押し倒されていた。
「……優しいだけだとしても、いおくんはいおくんじゃん。」
「そっか……ねぇ、どうしたら大瀬さんは僕のこと好きになってくれるの?わからないよ。嫌いなら嫌いって言ってくれていいから。言ってくれないと大瀬さんの優しさに漬け込んじゃいそう」
「……へ?いおくん僕に好きになってもらいたいの?」
「そうじゃなければあんなに優しくしないよ。奉仕じゃなくて下心で優しくしてるなんて大瀬さんにだけだよ……」
「――へへっ……ふーん……滅私とか言ってたけどそんなことなかったんだ」
憎まれ口を叩いてしまうが頬が緩むのが自分でもわかった。
依央利が自分に好意を向けてくれている。こんな幸せなことがあって良いのだろうか!この幸せな気持ちのまま今すぐにでも死にたい!今なら飛び降りて地面に落ちることなくブラックホールまでも飛んでいけそうだ。
「いおくんにそんなこと言ってもらえるなんてめちゃくちゃ嬉しい……今の気持ちのまま死にます!」
「え!?ちょっと!?そんな流れだったっけ!?」
依央利の下から抜け出そうとするが、押し倒されてる状況からなかなか抜け出せない。いおくんって意外と力あるんだ。こう見えてちゃんと男の子なんだな、と思って依央利の顔を見るといつもより赤くなった頬と欲が抑え切れてない視線が目に入った。
「大瀬さん、さっき嬉しいって言ってたけど本当?もしかして大瀬さんも僕のこと好き、なの……?」
「え、あ、ああっ!ちがっ、いや、違くないけど、いおくんだってこんなクソブスに好かれても嫌だよね!?一人で舞い上がってすみません!死んで詫びます!」
「嫌なわけないでしょ!……それに舞い上がってるのは大瀬さんだけじゃないし……」
依央利ってこんな表情するんだ。あれ、それによく考えたらこの状況すごく恥ずかしいかも。
依央利を男として意識してしまった今、まるで少女漫画のような展開に心臓がうるさくなる。顔も赤くなってしまっているかもしれない。墓場まで持っていくつもりだった想いが溢れてしまっている。
「ねえ、キスしてもいい?今日は頑張ってそれだけで止めるから」
「い、いおくんが嫌じゃなければ……」
「こっちが聞いてるのに嫌なわけないじゃん。大瀬さんもキスしたかったんでしょ」
「……わかってるくせに」
言い終わると同時くらいに唇が触れ合う。最初は触れるだけだったのに、苦しくなって息をしようと開いたところに舌が入ってくる。どうしていいのかわからないから、されるがままになっているとなんだか身体がふわふわしてくる。
「……っは、大瀬さんそんな顔されたら僕だって我慢出来なくなるよ」
「……いいよ、我慢しなくても。いおくんにならされてもいいし」
キスだけで止めるって言ってたのに、なんて言うのは野暮だろう。だって、自分もこの続きを望んでしまっているのだから。
「ここだと誰が帰ってきたらヤバいから僕の部屋行こっか……大瀬さんが良いって言ったんだから今まで我慢してた分ちゃんと受け止めてね」
そう言った依央利の瞳は今まで見たことないくらい僕を射止めていた。