地下鉄 いつも通り、薄暗い地下鉄のホームを歩く。ガラの悪そうな人の隙間を通って奥まで行けば、彼はいつも通り気怠げに柵に寄りかかって目を閉じていた。
「師匠〜!遊びに来ましたよ」
「なんだ、お前かよ」
「なんだは酷くないですか?」
そんなやり取りをしながらすぐ隣の柵に腰を掛ける。師匠は特に気にするでもなくスマホを片手でいじっているので、俺がいることに大分慣れたんだな、と少し嬉しく思いつつ。
悪戯心で頭を撫でれば、少しうざそうにこちらを睨んでから、それでもやめろとは言わずに撫でさせてくれたので思わず微笑む。
「ここは相変わらず賑やかですね」
「それがいいんだろ。一般人は滅多に近付かないし、変なやつが来ても遠慮なくぶっ潰せる」
それもそうか、と思いながら周囲を眺める。何人かと目が合うが、特に気にする様子もないので確かに師匠には居やすい場所なんだろう。木を隠すなら林って言葉が日本だったかにあった気がする。
「仲間からの定期連絡、来ました?」
「お前が来る前に終わってる」
「ならよかった」
轟音を立ててホームに電車が入ってくる。中をちらっと覗けば、屈強な奴らが何人か乗っていたので少し血が騒ぎつつ、ぐっと我慢。
師匠の手を取りながら「帰りましょうか」と言えば、少し眠そうな彼は小さく頷いた。
柵から降り、わざとらしく手を繋ぎ抱き寄せれば耳まで赤くした師匠が「他の奴に見られたらどうすんだ」と言ってきた。
「大丈夫ですよ。どうせ誰も気にしてないから」
薄暗いここなら、見られてもカップルがいちゃついている程度にしか思われないだろうなんて、まぁ実際は我慢できなかっただけなのだけれど。
俯いている彼が可愛くて、髪にそっとキス落とせばもっと赤くなるのだからからかい甲斐がある。
「どうせこのあとで部屋に戻ったら好き勝手するんだから今はやめろよ……」
「ふふ、それもそう。じゃあ後のおたのしみってことで」
嬉しい言葉を貰い、心の中でガッツポーズをしながら、待ち切れないと言わんばかりに彼の手を引く。
「ほら、帰りますよ」
「……いや、その前に1戦付き合えよ」
何処からともなく現れた段ボール頭たちに、周りを囲まれる。そう言えばはじめて共闘したときもこんな感じだったなと思いながら。
「良いですよ!どっちが多く倒せるか競争しましょう!」
合法的な闘いに、彼らには悪いが血が沸き立つのがわかる。一人に殴りかかりながら、乱戦が始まった。
伸びている段ボール頭を踏まないように師匠の方へ移動しながら拳の血を払う。やっぱり、誰かと闘うのは楽しい。
「師匠は何人倒しました?」
「あー、8人」
「俺6人だから俺の負けか〜……帰りにどっか寄りか。奢りますよ」
悔しく思いながらもそう言えば、ムスッとしていた師匠の顔がほころぶ。
そう言うところが可愛いんだよな、と思いつつ、彼の手を取ると、そのまま薄暗いホームを後にした。