敵とは言えど恋煩う 2月14日はバレンタインデー。 それはどの世界でも共通のイベントであるらしく、ここコネクタルランドでも、船島に繋げた各島々で色んなバレンタインデーの品々を販売していた。
船島でも、ツクローサの工房ではペアリングやペアネックレス、キノピオ達のお店では、主にバラや花束をメインにして共にチョコを売り出し、色んな島の住人達が往来して、わいわいと賑わいを見せていた。
「(1、2、3、4……うん、全部ある。)」
船島の中心から離れた潜望鏡のある場所で、赤い英雄の少女であるマリーは、バスケットの中にある可愛らしくラッピングされたチョコの数を確認しコクリと1人頷いた。
「(味は……ルイージやピーチ達に確認してもらったから、大丈夫。 初めて作ったけど、コネッタ達、喜んでくれるといいな。)」
マリーのいた世界とコネクタルランドでは、バレンタインデーに贈るものが(僅かであるが)異なるらしく、郷に入っては郷に従えの方式で、今回マリーは初めてチョコを作った。
味は弟と親友のお墨付き。自信作である。
コネッタやタップー、センサミール、ギミルダ、グズグズ団と、この世界に来てお世話になっている人達に配ろうと、広場の方へ向かおうとしたその時である。
「……? 、!」
広場と潜望鏡の中心辺り……青い花の咲く箇所の開けた場所に、ある存在を確認する。 紫と黒をメインにしたジャケットとズボンを着こなし、スラリとした背の高い黒髪の青年の、後ろ姿。闇コネリーを蓄えた配下や、ゼツエンタイを作るための労働力として人攫いをしてきた中心人物。
自らをボルドルド隊の頭脳と名乗る、ルドルフだ。
「(……ボルドーと、トッドがいない。1人で船島に…?)」
彼の周りを見回すが、あのピンクの生意気な青年と寡黙な緑の青年がいない。ルドルフはマリーに気付くことはなく、まるで誰かを探しているように広場を見つめている。
「…………」
何をしに来たのか。また人攫いをしにきたのか。それとも偵察か。 暫くその場で警戒しつつ様子を伺っていたけれど、ルドルフに動きは無い。 痺れを切らしたマリーは、直接目的を探ることを選択する。ルドルフと一定の距離を保ちながら、声をかけた。
「ここでなにしてるの。」
「ん?うわァァ!?!? なっ、い、いつの間に私の背後をっ!? い、いや、わかってはいた。貴様が後ろにいることもっ!
フフフフ、貴様から仕掛けてくるのを、待っていたのだ。」
「…………なにしにきたの。」
ルドルフは飛び上がるほど驚きマリーへと振り向いたが、すぐに依然とした態度へと戻りあくまで待ち構えていたのだと主張する。 予想出来ていなかっただろうに、ここで見栄を張るのは敵ゆえか。マリーがため息を飲み込み再度問いかけると、ルドルフは佇まいを直して賑わう広場へと顔を向ける。
「フッ……敵である貴様に教える義理は無い。」
目的を聞かれ、僅かに耳を赤くしながらも、ルドルフは答えない。 頭脳と言う割にはどこか間抜けなルドルフであるため、ポロッと情報を零すことを期待したが、そうはいかなかった。
ここに来た目的がろくな事ではないだろうと予想しているマリーは、何とか彼から情報を読み取ろうと、ルドルフの視線の先を注意深く観察する。ルドルフの視線の先にあるのは、わいわいと賑わう広場……の、キノピオの、花屋だ。
「…………(まさか、)」
マリーの脳裏に、ボルドルド隊と初めて対面した時のこと。あの時、ガブンデスと言うウツボカズラのような植物に、闇コネリーを蓄えさせて凶暴化させていた。今回もまさかと、予想したマリーは、ルドルフの前に恐れず毅然とした態度で告げる。
「止めて」
折角のバレンタインデー……皆が楽しんでいるのを、壊したくはない。
毅然と、上目遣いで睨みつけるマリーに、ルドルフもまた億さず得意げに笑みを浮かべた。
「……フッ…私が、敵の言うことを聞くとでも」
「これあげるから、今日は帰って。」
マリーはバスケットの中から、ハートの形の箱にラッピングされたチョコを取り出して、ルドルフへ差し出す。たまたま取り出したのは、愛する弟、ルイージへ渡す用のバレンタインチョコだった。目の前に差し出されたルドルフは目をパチクリさせて凝視した後、理解が追いついたのかしらないが、何故かボンッと音を立てるほど顔を赤く染めあげた。
「なっっ!こ、これは、正気か…!!?」
「(コクン (敵にチョコを渡してることなんて)正気だよ。」
「だが、なんだ、その……っ、こ、これは、特別では……?」
「そう。(ルイージのための)特別。
だから、今日はこれで帰って欲しい。」
皆の楽しみを、奪わないで欲しい。その思いを一心に、真剣な眼差しでルドルフを見つめる。マリーの瞳に負けたのか、ルドルフはどこか恥ずかしそうに、赤らめた顔をマリーから逸らし、ごにょごにょと呟く。
「わ、私とお前は敵同士だ! だが、そのっ……貴様の気持ちを無下にする程では、ない……。それに、お前は意外と……私好みでは、ある……。力も、我々の作戦を幾度となく阻止してきた程の実力だ。
だ、だから、その…………!」
ルドルフはマリーからのチョコを手に海の方へと駆け、いつの間にか呼んだゴイールに捕まった後に、続ける。
「い、1ヶ月後!!!返事を待っているといい!!!」
ではな!!と、捨て台詞のように吐き捨て、船島からバッサバッサと羽ばたき離れていく。
一方的に話を終えられポカンとしていたマリーだったが、難は去ったと安堵する。正直ルドルフが何を言いたかったのか全く分からなかったけれど、戦闘が無かっただけでも良いだろうと言う判断だ。
「姉さ〜ん!」
「マリーさ〜ん!」
広場の方から声をかけられ振り向くと、こちらにルイージとコネッタが手を振っている。ルイージには申し訳ないことをしたが、また帰ってから沢山チョコを作ってあげようと心に決めて、マリーはバスケットを抱え直し2人の元へ急ぐのであった。
1ヶ月後、ゴイールから紫のリボンでラッピングされた6本のバラの花束が贈られてくることを、この時のマリーはまだ知らない。
更に、コネッタから、この世界でのバレンタインデーとは、感謝の気持ちよりも、恋人や告白にチョコを贈る風習が根強いことを、ホワイトデーの日に知ることになる。
(あ、おかえりー。どうだったよ、偵察は。)
(?なんで顔赤くして…てか、手に持ってるソレ)
(ボルドー、トッド……わ、私は…マ、マリーに、マリーに……告白されたっっ!!)
((ええええええええええええええっ!?))
(へ、返事は)(んで、返事は?)
(ま、まだ答えていない!だが、その……1ヶ月後に、返事をするつもりだ。
マリーが私とそ、そういう…恋人になれば!我がボルドルド隊の戦力も大幅にアップする!!これ程良いことはないっ!)
(んじゃその場で答えたら良くね?)
(なんで、1ヶ月後……)
(っ、わ、私にも心の準備というものが必要だからだ!!!!!!)