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    バイトの面接に行ったら小さくなった従兄弟が二階から降りてきた

    コナン夢 01「東都大学の医学部に合格すれば車を買ってやる」と約束してくれたはずの父親は、いざ合格した俺が見積もりを渡すと「全額出すとは言ってない」と態度を一変させた。

     手のひら返しも甚だしい。俺に『嘘をついてはいけません』と教えたのは一体誰だったっけ?
     一応はこの国で最高学府の最難関ではあるのだから、このくらいのご褒美はあって然るべきじゃないの? 兄貴が通ってる医大よりも偏差値高いんだけど?

     とは言え、俺にもちょーっとばかし反省の余地はある。
     元はイギリスで生産されていた乗用車であるMINI、それもJCWジョン・クーパー・ワークスの新車ともなれば、父が渋るのも無理はない。

     とは言え「やっぱやめます」とは言えないくらい、俺はコイツに惚れ込んでしまった。ディーラーとも話を付けてしまったので今更後戻りなどできない。
     仕方ないので手当たり次第に申し込んだ奨学金の総額と父からの(額が一桁ほど足りない)援助、それにこれまでの貯金を全てぶち込むことで、なんとか無理のない返済計画を立てることに成功した。俺、やったぜ。

     しかしながら、花の大学生活が始まって早々に素寒貧なのは間違いない。こんなんじゃ新歓コンパにも参加できないし遊びにだって行けっこない。
     俺は大学でパァッと遊びたいんだよ。

     そんなわけで、俺はバイトを始めることにした。なんだかんだでこれが初バイトだ。
     俺の母校である帝丹高校は偏差値高めの進学校であるものだから、バイトしている人なんて周囲にそういなかったし、高校の三年間はそもそも弓道に捧げてしまった。

     人生最初のアルバイト、となると、やはりそれなりに悩むもので。
     肉体的にキツそうなやつ、人間関係がしんどそうなやつはまずもって向いていない。シフトが多すぎたり少なすぎたり、ノルマがあったりするのも却下だ。

     割とゆるくて自由なところがいいなとネットの海を彷徨っていたところ、『喫茶ポアロ』という喫茶店の求人を発見した。
     どうやら個人経営の喫茶店らしい。週2〜の募集、未経験者歓迎、制服あり、交通費支給、そして車通勤OK。最後の一文を見て、俺は応募を決めたのだった。

     面接は想定していたよりも楽勝だった。
     オーナーは気さくな人だったし、希望シフトと志望理由を問われた後は「じゃあ、来週からよろしく」と、採用はトントン拍子に決定した。
     唯一「東都大の医学部生がどうしてウチにバイトに……?」と怪訝な顔をされはしたものの、何度かポアロに来店したこと等を話して納得してもらった。

     ……そう、面接に赴いて初めて気付いたのだが──この『喫茶ポアロ』、我が親愛なる従兄弟様──工藤新一の片思い相手である幼馴染、毛利蘭ちゃんのご自宅なのであった。
     正確にはポアロが入っているこのビル自体が毛利さんちの持ち家で、一階がポアロ、二階に蘭ちゃんの父親が経営する探偵事務所、三階が住居であるらしい。何度か従兄弟様との待ち合わせで使ったから憶えがあったのだ。

    「そうだな……蘭ちゃんに挨拶でもしておくか」

     従兄弟様と幼馴染である蘭ちゃんとは昔からの仲だが、この一年は大学受験で忙しくて少々疎遠になってしまっていた。
     最後に会話したのは卒業式の時だ。冗談で第二ボタンをあげようとしたら新一に叩き落とされた。全く、幾つになっても相変わらず可愛い従兄弟様だ。

    「蘭ちゃん、元気にしているかなー……」

     そう呟きつつ、二階へと上がる階段へ足を掛ける。
     その時、奥からキィィと扉が開く音がして、お、と俺は足を止めた。

     その人物は、トントントンと足音を立てて階段を降りてくる。その足音は軽く、子供のようだ。
     ……確か、蘭ちゃんは父親と二人暮らしだったはず。
     もしかして探偵事務所へ来た依頼人のご家族かな、と、俺は一段目に乗せた足を引き、子供を先に通すことにした。

    「…………、え」

     ──一番最初に目に入ったのは、子供の頭に巻かれた真新しい包帯。
     青いジャケットに赤の蝶ネクタイ、半ズボンに黒縁メガネを掛けたその子供は、階段下に佇む俺の姿を見、ギョッとしたように大きな瞳を見開いた。

    「ゲッ、慎二……!?」
    「……ハ? し、新一?」

     思わず震える声が溢れる。
     だって、二階から降りてきた子供は──俺の従兄弟である工藤新一の、幼少期の姿に瓜二つだったのだから。





    「「……………………」」

     バイトの面接に行ったら、小さくなった従兄弟が二階から降りてきた。
     ……て。待て待て。

     いやいやいや。
     いやいやいやいや。
     ないっしょ。現実的に考えて。

     でも現実的に考えて、今この俺の目の前で『やっちまったー』みたいな表情を浮かべて立ち竦んでいるこのガキを、どう説明すればいいと言うんだ?

     俺の腰にも届かない、幼稚園児か、せいぜい小学校低学年ほどの矮躯。眼鏡の奥の大きな瞳は所在なげに俺を見上げている。
     その顔つきはおろか、育ちの良さそうな子供服にも見憶えがあった。何せ、同じ町に住む従兄弟同士だ。顔を合わせる機会は数え切れないほどあった。
     ……しかも、俺の耳が正常であれば確か、このガキ今俺を見て『慎二』って言ったよな?

    「……新一……なのか……?」
    「ハッ!? えっ、お兄さん一体どうしちゃったのかなぁ? ボクの名前は新一じゃないよ? ヤダなぁ、アハハ……」

     嘘臭い笑い声を零しながら、子供はそろそろと後ずさる。子供の頭には真新しい包帯が巻かれていた。俺は咄嗟にその子供の腕を掴む。

    「待てよ」
    「ヒッ……何かなお兄さん……ボクちょっと用があるから、は、離してほしいんだけど……」

     子供は俺の腕を振り払おうとするも、少々難儀しているようだ。それもその筈、大人と子供の体格差は埋めようがない。
     子供の腕を掴む手に力を込めたところ、彼は痛みに顔を歪めた。俺はその子供に正面から向き直ると、身を屈めて目線を合わせる。
     そして────

    「頭を打ったんだな? それ、いつのことか分かるか? 吐き気は? ふらつきや目眩を覚えたことは? 熱はどうだ? 視界は正常か? 指、何本か分かるか?」

     子供の顔を両手で包み込み、覗き込むように検分する。
     頭部打撲を舐めてはならない。ぶつけた直後は平気でも、後からじわじわと体調がおかしくなることはある。特に子供の場合は意思表示が大人のように明瞭でない分、しっかりと大人が経過観察をしてやる必要があるのだ。

     子供はびっくりした顔で、眼鏡の奥の目をパチパチと瞬かせている。
     ……見たところ意識はしっかりしている。顔色も悪くはないが、しかし油断はできない。

    「はぁ、全く……ちょっと来い」
    「えっ、どこに!?」
    「俺んち……まぁ、病院。その包帯は素人の手付きだ。いっぺんちゃんと診てもらうぞ」
    「ウゲッ!? あっ、ちょっと!」

     問答無用で子供の手首を掴み引っ張って行く。
     嫌だとばかりに子供は足を突っ張るも、こちとら大人だ、そんなもの枷にもならない。あえなくズルズルと引き摺られそうになる中、子供は慌てた声を上げた。

    「オイ待てって、クソッ……しゃーねぇなっ、……雪永慎二さん! あなた、今日ここにポアロのアルバイトの面接を受けに来た帰りですよね!?」
    「えっ?」

     咄嗟に足を止め、子供を見下ろす。俺を見上げた子供は、この機を逃してなるものかとばかりに早口で言い募った。

    「流石に車、それもMINIのJCWは値が張りますからね。大学の合格祝いと言えど足が出たのでしょう……アルバイトの面接が終わり、今はその帰り道。蘭の家がポアロの二階だと思い出したあなたは『折角だから挨拶していこう』などと思い立ち、この階段に足を掛けた……違いますか?」
    「何で、それを……」

     俺、車買うとか新一に話したことあるっけ? そもそもどうして、俺がバイトの面接に来たって分かったんだ?

    「簡単なことですよ」と、子供は人差し指を振りつつシニカルに片頬笑んだ。

    「今日は土曜で大学は休み。普段の慎二は財布と携帯しか入らねーようなショルダーバッグなのに、今日ばかりはA4が入るトートバッグだ。そのバッグも、本やノートが入っているような膨らみは無い……ってことは大方、履歴書を折り曲げずに持ち運ぶためのチョイスだろう。ポアロの店先には、バイト求人のチラシも貼り出してあるし……何よりの証拠として、オメーのバッグからポアロのエプロンが覗いてるしな」

     俺は慌てて、トートバッグの開け口から僅かにはみ出ていたエプロンを押し込んだ。

    「……じゃあ、車の話は? 俺、お前に車買うとか話した記憶ないんだけど」
    「バーロ、この前オメーの大学合格を祝いに行った時、車庫調査員が家の車庫を見に来てただろ。車を納車する際、提出された車庫証明申請書が適切かどうかを調査するのが車庫調査員の役割だ。オメーの父親は去年車を替えたばかりだし、母親は免許持ってねーだろ。兄貴は車に興味ないし、オメーは昔から自分の車を欲しがっていたし、そもそもオメーの部屋の本棚にはJCWのカタログが刺さってたし」
    「うわ、よく見てんな」

     流石は従兄弟様だ。観察眼が常人とは違うぜ。
    「ま、オレは名探偵だからな」と子供は得意げに胸を張る。おうおう可愛らしいこって。
     俺はその子供の前に膝をつくと、にっこりと笑いかけた。

    「で? なんでちっちゃくなっちゃったの、工藤新一くん」
    「……アハ♡ やっぱ、バレた?」
    「バレないわけないっつの」
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