アイドル志望のkksとobtの話 参加した舞台の打ち上げで彼を見た時、ああコイツ嫌いなタイプだ、と思った。
「えーっ!トビくん、今漫画喫茶に住んでるの!?」
「アハハ!そーなんスよ!」
一つ向こうの席からそのやりとりを眺める。
俺とは違うアイドル事務所に所属するトビは、周囲に向かって陽のオーラを放っては、デカい声で大袈裟な話をして人の注目を集めていた。
「実は隣の部屋が爆発しちゃいまして…」
「ば、爆発??ってことは火事!?大変じゃない!」
「イヤ、火事…っつっても全然大したことなくて。ボヤ騒ぎ程度っす。その隣人、芸術家(笑)を志望してて」
口からは嘘みたいな話が出てくる。先の広い袖に包まれた手が忙しなく動いていた。そんな愛嬌のある仕草が妙に腹立たしく、俺の目に映る。舞台の練習も、リハーサルもあいつは遅刻してきた。いちいち関わるのは面倒だからそれを直接本人に指摘したことはない。周りは『トビはあの性格だから仕方ない』と緩く注意しては結局許している。その感じがさらに俺のイライラを煽っていた。
「ウチのアパート、クセのある住人が多いんですよ。今まで壁とか壊されたことはあったんですけど、元々古いアパートだったんでこの際まとめて修繕しようという話になりまして…」
もう舞台からは下りてるのにヘラヘラして、誰にでも振りまく笑顔に嫌悪を抱いた。
「だから今夜だけでも…誰かボクを泊めてくれると嬉しいんですけどねぇ?」
細まった目が流れるように俺の隣へと向けられる。そうはさせるか、と咄嗟に近くにあったビール瓶を手に取り、卓上の空いていたグラスに注いだ。トクトクと泡と液体の黄金比率を作り、隣に向かってニコリと微笑みかける。
「まだ飲まれますよね?プロデューサー」
「おっ、悪いねスケアくん」
スッと肩に置かれた男の指が俺の首筋に触れた。ぞわりと肌が粟立つのを抑えて笑みを深める。視線を戻せば、トビの笑顔が一瞬消えたのが見えた。
わかってる。これは同族嫌悪だ。クズの俺達はこうやって媚びを売ることでしか次の舞台に上がれない。
「トビくん、もし困ってるならこの後ホテルに…」
「ダメですよ。今夜は先約があるでしょう」
トビに目を向けたプロデューサーの声を遮り、そう耳元で囁いた。