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    poppokyo

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    オビリンワンドロ『海』

    光を失った世界の波間にて 潮風の吹く砂浜に、黒髪の男が足を踏み入れた。纏った着物の隙間からは、異様なほど白い右半身が覗いている。男は一人、何をするでもなく。己が乱し、支配した国の海岸線にただ佇んでいた。
     祖国は遠い。
     ここからは到底、見えることのない白けた霞の先に、男の生まれた里があった。
     踏み跡の砂利の下には小さな貝殻が覗いていたが、それもすぐに波に呑まれ消えていく。引いては寄る波がぶつかり合い、飛沫が高く舞った。
     鼓膜を震わす波の残音は、否が応にも、男の記憶を引きずり起こした。

    『ねぇ、■■■』
     彼女が優しく、彼の名を呼ぶ。男はその名を知っていた。
     その男はかつて、今と違う名を持つ少年だった。
     違うのは名だけではない。様相も、所在も。何もかも、今とは全く変わってしまった。 

    『前に話したこと、覚えてる?』
     光に満ちた記憶の中でだけ、愛する彼女は語りかける。

    『■■■になって、世界を救うって』
     ノイズが入る。知っていたからこそ、否定した。脳がそれを赦さなかった。彼女の"それ"は、今の彼が受け入れてはならないものだった。

    『■■■のそれは、私の夢の先でもあるんだよ』
     彼女の目が細まる。慈愛に満ちた、美しい微笑みだった。

    『だから一緒に───……』
     彼女の声は波にさらわれ、かき消された。男は片方しかない目を閉じる。今も尚、その最期は色濃く瞼の裏に焼き付いていた。

     男が見据える先には、理想の世界があった。
    「───そこに、君がいなければ……」
     君のいない世界に、意味などない。やがてそれも消えゆくだろう。

     未練などあってはならない。
     仮面を被り、男は静かに姿を消した。残されたのは波の音だけ。冷たくなった空は海と交じり、闇色に染まっていった。
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    poppokyo

    MAIKINGけじぇふらっとさん(@kjefrat)が書いてくださった私の妄想(https://poipiku.com/11313044/12071594.html)をさらに広げました。人を選ぶやつなので何でもオッケーな方以外読まないほうがいいぜ…主にobt視点です。
    漏れや書き損じ、穴があったらすみません。
    えっちな続きはけじぇさんが書いてくれると信じて……なんてね。たぶん手が空いた方が書く。
    ドルパログラビア!?つー! うちはオビトは特殊な家庭で育った少年だった。いや、『家庭』というより『家系』と言った方が正しい。
     オビトの家系はいわゆる、芸能一族だった。その始祖は戦乱の世が治まったばかりの時代まで遡る。
     文化が栄え、華開いた平和な時代。低俗、下賤、無意味だと称されていたものに価値が見出され、評価をされて尊き立場までのし上がった文芸の数々──その一つに名を連ねる、とある伝統芸能を主軸とした『うちは家』が、オビトの直系であった。
     けれどオビト自身は、そのうちは家の一員であるという意識が全くなかった。それもそのはず。物心つく前に亡くなってしまったオビトの両親は自分達の一族から歓迎されない結ばれ方をしたようで、親族との関係は絶縁状態に近かった。そして遺されたオビトも当然、両親と同じ扱いを親族から受けていた。
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