寝ている狄秋の足先に触れた。白い指先はひんやりとしていて、少しだけ、どきりとした。
いつかはそんな日を迎えるのかもしれない、と心のどこかでは思っていた。彼は自分よりいくつかは年上だからというわけではなく、たった一つの目的のためだけに身を長らえているからだ。
そのたった一つが潰えた時、彼をこの世に引き留めるものはなくなってしまったと、そう思った。
行方知れずになった数ヶ月、彼の部下がどれほど泣きついてきても腰を上げなかったのは、その死を知りたくなかったからだ。
いまは後悔している。もっと早くに探していたら、もっと早くに助け出せていたのに。
いつも間に合わない。
いつも、考えすぎて手遅れになる。
お前は見た目や名前のわりにずいぶんと小心だ、と笑ったのは狄秋だ。まだ、彼本来の快活さを失っていなかったころ。
「あんたはもっと考えてから動くべきだ」
言い返すと、愉快そうに笑った。
「祖哥、聞いたか? 俺に意見したいらしい」
揶揄い混じりの明るい声。くるくると変わる表情。どれだけ振り回されても、傍にいたかった。
怒られても疎まれても、恩讐に囚われていた彼を、止めるべきだった。行動に添うのではなく、心情に寄り添い、一緒にこの先を生きて行こうと、そう言えばよかった。
「阿秋……」
掠れた声で、名を呟けば、微かな声が返ってきた。
「秋哥、じゃないのか」
「…………起きていたのか」
「そりゃ、そんなふうに触られたら、擽ったい」
声は小さく力もないが、軽口をきく気力はあるようだ。狄秋とは、そういう男だ。
「なんだ、泣いているのか?」
「違う」
「じゃあ、怒っているのか」
「そうだ」
「ふふ……お前はずっと怒っていろ」
お前は昔から、ずっと俺に怒っていたろう。
「そうだったか……?」
「怒らないお前なんて……」
そう言いかけて、狄秋はまた目を閉じた。
何ヶ月も日に当たらなかった肌は青白く、元々白かった髪もいっそう白く、療養着やシーツの白さもあって、そのまま溶けてしまいそうにすら見える。
そんな中にあって、僅かに血色を取り戻した唇に、少し安堵して、再び眠りに落ちた狄秋の、その唇に、Tigerはそうっと触れた。