無題 吾輩は猫である。名前はまだ無い。
…なーんてね、ちゃんと名前はある。まだ産まれたばかり、名前なんてなかった子猫だった頃、親とはぐれて(育児放棄されたとも言う)、道の端っこで小さくなっていた俺を見つけ拾ってくれた男がいた。前髪が変なこの男の名前はすぐる。
ただひたすらお腹が空いて寂しくて。段々寒くなってきて、俺死んじゃうのかなぁって思ったその時、ふわりと抱き上げられた。あったかい思い出、そのときのことは今でもしっかりと覚えている。
本当に死にかけだったらしい俺のことを必死に介抱して、育ててくれたすぐる。すぐるは俺を大切に大切にしてくれて、寂しかった心をたくさん満たしてくれた。すぐるは俺のことを「さとる」って呼ぶ。初めてそう呼ばれたとき、俺の名前だってすぐにわかって返事をしたら、すぐるが嬉しそうに笑ったんだ。すぐるに名前を呼ばれると何だが胸の辺りがふわふわして、温かくなって幸せな気持ちになる。だから、俺には「さとる」って立派な名前があるんだ。
2604