メーデー、メーデー! 拙い、と思ったときにはもう遅かった。
一瞬の空隙を逃さず迫ってくる尖った膝をようよう避けた側頭部に喰らい、ふらついた拍子に容赦なくもう一発を腹に打ち込まれて吹っ飛ばされる。さすがに受け身は取ったが道場の床に強か背中を強打し、傑は何度目かの敗戦を喫した。
「僕との手合わせの間に考えごとするなんて随分余裕だねぇ、傑」
涼しい顔で自分を見下ろしてくるサングラス越しの碧い瞳が見透かしたように笑ってくる。誰のせいだと──と、文句をつけたいのも山々だが訓練中に上の空だったことは否めない。憮然と不服そうな顔を決め込んで上体を起こした。
「集中できてないじゃん、今日はやめとく? そんなんじゃ怪我するよ」
近づいてきて同じ目線になるよう屈み込み、にやりと口角を上げる。
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