転生パロつづき彼は誰を自分に重ねているのだろう。
自分は誰を彼に重ねているのだろう。
たまにぼんやりと重なる蜃気楼。ゆらゆらと揺れて、掴めずに消えていってしまう。
彼とは初対面だったし、その彼と重なったような幻影にも初めて会った。
君は誰なのだろう。あの彼の向こう側の君は。そして、君が見ている私は誰なの?
何度も彼と会って会話を重ねていくうちに、好みや趣味や様々なことがわかっていく。気が合うし、会話も弾む。
彼との会話は心地が良い。
辛いことがあってもどこかに逃げさせてくれるような、ひとときの安息を与えてくれるような、そんな会話。
でもそんな会話の中でちらちらと既視感がちらつく。最初は気の所為だと思っていたがあまりにもそれが多い。それだけでなく、見知らぬだれかと彼が重なるのだから絶対になにかがあるのだろう。
前世なんて信じるクチではないけど、そう、まるでそれのような。
多分私はここではないどこかで彼に会ったことがあるのだ。
暑さを含んだ風が木々を揺らす。耳鳴りのようにうるさい蝉の声が響いている。
「…あつい…」
「暑いね」
蝉の声に負けそうな小さな声が絞り出される。いつも涼しげな顔をしているノアンの額にも汗が伝っている。帽子があまり役に立っていない気もする。
絵のモデルになって欲しいと言われて、彼の家にお邪魔することになったのは良いものの、炎天下の中での歩きは無謀だったかもしれなかった。バス停でバスを待つべきだった。
しかし後悔してももう遅い。バス停に引き返すよりは彼の家に向かうほうが早いし、バス停に戻ったとてバスがすぐ来るわけでもない。
暑い中無言になりながら二人で歩を進める。
なにか話すこともないかと思って、ふと疑問を口にしてみた。
「ノアンは、さ」
「…ん?」
「前世とか、信じてる?」
虚を突かれたように彼が目を見開く。それもわずかな時間ですぐに暑そうな表情に戻った。瞳の奥が一滴の水滴を入れられた水面のように揺らいでいる。
いけないことを聞いてしまっただろうか。軽い気持ちで聞いてはいけなかったのだろうか。
ひときわ強い風が吹いて濡れた肌を軽く撫でていく。少しの涼しさの中で彼ははっきりこういった。
「信じてるよ、前世」
蝉の声が遠くなるくらいの強さで、はっきりと。
「そっか」
「君は?」
蒸れてきた帽子を一度外して風を頭に当てる。
張り付いた髪が少しずつ剥がれて動いていく。
頭皮にじりじりと日光が当たる。彼の視線も刺さるくらいに感じる。
そんなに期待するってことは、君は何か知っているの?
そんな問いをペットボトルのお茶で流し込んで息をついた。応えるようにそっと彼を見る。
「…信じてなかったけど最近は信じたいって思ってる、かも」
これは本心だ。
それに前世を信じなければこの感覚は説明がつかないような気がした。
ノアンがふっと笑う。そうなんだ、という彼の言葉は少し弾んでいるような気がして。そしてその笑い方を生まれる前から知っているような気がしてしまって。
何の気もなしに少し前を歩く彼の足元を見る。健康な、ただの二本の足だ。大地を踏んでいる。
左腕も、少し筋肉がついた腕。汗が伝って、血管が浮き上がっている。
汗が少し染み込んだ服の下の下の、心の臓はきっと少し速い鼓動を刻んでいる。
なぜこんなにも嬉しく感じるのだろう。
「そんな顔してどうしたの?」
「え?」
「なにか悲しいことでも考えていたの?」
視線を上に上げれば目が合った。心配そうにしている。たしかにいま自分は嬉しいと感じていたはずなのに、どうして。
「迷子になったみたいな顔をしていたから」
大丈夫、僕はここにいる。
その言葉をたしかに、たしかに聞いたことがあって。胸の奥の誰かが笑った気がした。