デート「二人きりで……か」
悟飯に思いを打ち明けられ"そういう関係"になってから数週間が経とうとしていたが今だに二人きりで会うことはなかった。
しかし突如として悟飯から「二人きりでお出かけしましょう」と誘われた時、何故だか胸がゾワゾワとした。
今までは二人でいる時なんて何も思わなかったのに。
胸にある違和感を拭えなく、話を聞いてもらうべく俺はとある人物の元へと向かった。
「で……僕にアドバイスでも聞きに来たの?ピッコロさん」
「あ、アドバイスというか……お前はこういうことに関して詳しいだろう?悟天」
悟飯の実の弟である悟天は兄とは違い、こう言ったことに関してはまるで興味津々だった。それにコイツは兄のことを深く理解しているはずだ。
「兄ちゃんになんて言われたの?」
「二人きりで出かけよう、と」
悟天の自室のベッドに胡座をかき腕を組む俺を見下すように立ったままの悟天はあきれたような表情だった。
「はぁ、それってデートしたいってことだよね?」
「で、でーと?……」
「え!?まさかそこから!?」
考え込む俺を見て悟天は愕然としているようだ。
「すまん、でーととはなんだ?」
知らないものは知らないんだ。仕方ないだろう。告白を受け入れた今だって恋に関してよく分かっていないのだから。
ただ、悟飯に好きだと言われて、嫌な気は全く無かったし寧ろ喜びすら感じてしまった。
恋が何かわからないなんて言う俺のことを悟飯は「それでもいいんです」なんて言うから……俺は。
「俺は、デートとやらを知りたい」
「え?ピッコロさんがこう言うことに積極的なの珍しいね」
「悟飯はこう言ったことに鈍い俺をそれでもいいと言って受け入れてくれた。しかし……やはり悟飯はそれで満足はしないだろう……」
「へぇ、なるほどね……じゃあこれで勉強する?」
そう言って悟天は本棚を漁りとある本を手に取るとそれを俺に渡してきた。
「……"その気にさせるデート方"……これは……?」
「それを読めばきっと兄ちゃんもピッコロさんにもっとメロメロになるんじゃないかな〜?」
「め、めろめろ……」
「あ!僕これからデートの約束あるからそろそろ行くよ?まぁそんな顔しないでピッコロさんも頑張ってよ!」
悟天に慰められ、神殿へと戻った。
まさか神殿でこのような本を読む日が来るなんて……。
しかしペラペラとページを捲るがイマイチ理解ができずにいた。
「帰り際、さりげなくホテルに行きたい素振りを見せる……か……ホテル?何故ホテルに行くんだ?」
地球人のデートとやらはよくわからないな。
「何故って……えっちなことしたいからですよ……」
「えっちなことか。俺にはわからんな」
「…………じゃあ僕と学びましょうか」
聞き慣れた声が突如として耳元から聞こえたことに一瞬脳の処理が追いつかない。
「……!?!?ッごッごは、悟飯!?!?貴様いつからそこに!!!?」
足音ひとつ鳴らさずに背後まで迫ってきていた悟飯に動揺が隠せない。
まずい、こんな本を読んでいるのがバレてしまった。
「な〜に一人で読んでるんですか〜?」
俺の手に持っていた本はいつのまにか悟飯に奪われた。
「その気にさせるデート方……?」
「ちっ違うんだ!悟天から借りたもので……」
「悟天?どうして悟天からこんなものを?」
「……っ……お前が二人きりで会いたいと言うから」
自分でもわかる。きっと今の俺は耳まで紫に染まってるに違いない。
「……ピッコロさん。僕の誘いをデートだと認識していてくれたんですか?」
「悟天が、それはデートの誘いだって言うから……」
近い……悟飯の顔が……。
「ふふ、そっかぁ。嬉しいなあ。僕のためにこんな本にまで目を通してくれるなんて」
「……こんな無知な俺に、お前は満足しないだろう…………」
至近距離の悟飯は俺の頬を温かな手でスリスリと撫でてくる。
「僕はピッコロさんと一緒にいれるだけで幸せなんです。どんなピッコロさんでも好きです。だからそんな顔しないで?」
一体俺はどんな顔をしているのだ。ますます羞恥心が込み上げてきた。
「じゃあ、これからは一人じゃなくて一緒に学んでいきませんか?恋について」
「一緒に……?」
「そう……ホテルが何のことを指してるのかもわからない様子だったしっ!」
うっ……。弟子に笑われる日が来るなんて。
「ね?ピッコロさん。少しずつ学んでいきましょう?」
「……よ、よろしく頼む」
熱くなった俺の頬を悟飯は両手で包み込み、更に熱は増していく。……これが恋なのか?
「ピッコロさん、デートのことなんですけど……」
「なんだ?」
「ピッコロさんはありのままでいてください。本の受け売りじゃなくて素のピッコロさんがみたいんです。もちろん僕の為に頑張ってくれるあなたも好きですけど」
悟天から借りた本を回収した悟飯はそんなことを言う。
「それに、僕にリードさせてください。ダメですか?」
今度は王子が姫にするかのように悟飯は俺の手を引いた。
「……わ、わかった…………」
「ふふふ、デート楽しみにしてますね……あ、でもデート以外の勉強はきっちりしてもらいますからね?」
そう言って掴んでいた手を引かれて今度は口と口がぶつかった。
「っ!?……んっ……ご、ごは」
初めての感覚に動揺が隠せない俺のことなんか無視してその行為を続けた。
「…………ピッコロさん、もうお勉強は始まっていますよ?」
不敵な笑みを浮かべる初めてみた弟子の顔は一生忘れることはないだろう。
END