お菓子、珈琲「悟飯、なんだそれは?」
ピッコロさんは水以外を口にしない。食事を摂らない。そんなのとっくの昔から知っているのに僕はどうしても衝動を抑えられず、綺麗に梱包されたそれをピッコロさんに差し出した――……。
広い神殿のベッドにピッコロさんと二人肩を並べ座る。
「今日ね、調理実習でクッキーを作ったんです! 僕お菓子作りなんて初めてだったからどうしてもピッコロさんに食べて欲しくて……」
「お前、俺が水しか飲まんのは知っているだろ……?」
「……そうですよね……ピッコロさんのことを思いながら作ったんですけど…………やっぱり他の人にあげてきます」
自分の掌に無意識に力が入ると中に入ったクッキーが割れる。その様はまるで僕の心とシンクロしているようだった。
「――待て」
僕が部屋から出ようとするのを阻止する師匠は、いつものクールな姿からは想像出来ないほど取り乱しているようだった。
「……他のやつにあげるなら、お……俺が食ってやらん事もない」
「え? でも水しか飲まないってさっき……」
「いいから寄越せ!」
僕の手から無理矢理クッキーを奪い取ると中身を取り出し自ら口の中に乱暴に割れたそれを放り込んだ。
「え、ちょっとピッコロさん、そんなことして大丈夫ですか!?!?」
「……っ……も、問題……ない……」
「で、でも……すごく顔色悪いです……」
――みるみる青ざめる顔……荒くなる息……苦しそうな表情……僕はそんなピッコロさんに視線が釘付けになっていた。
そして手を口元に当てると嗚咽まで漏れる次第だ。
「ゔっ……ぐ……っ……」
「ピッコロさん! 気持ち悪いならすぐに吐いてください!」
そう言って背中を摩っても吐くどころか、それをゴクリと飲み込んでしまった。
「……はぁ……はぁ……お……お前……から……」
「……?」
「…………お前から……も貰ったものを、吐き出せるわけないだろ……」
「…………ピッコロさん……」
食べないなら他の人にあげる、なんてことをつい口走ったが正直なところピッコロさん以外の誰かに食べてもらう気なんてさらさらなかった。だからこそ、ピッコロさんがこんなにも苦しんでまで体内に運んでくれた事が嬉しくて嬉しくて……僕は緩みそうな口を必死に抑えた。
「……ぐっ……はぁ……は、ぁ……」
そのままベッドに倒れ込んでしまったピッコロさんの頭を優しく撫でる。
「もう……ピッコロさんったら、そんなに無理して食べなくても良かったんですよ……?」
「…………ふん……うるさい……」
それだけ言うと顔を背けてしまったが、その姿すらも今の僕には愛おしくて堪らなかった。
――今度は何を食べさせようか……なんて事を考えているうちに愛しの師匠は眠りについていた。
end