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    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

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    #飯P版深夜の真剣お絵描き字書き60分一本勝負
    お題【口笛】

    #二次創作BL
    secondaryCreationBl
    #飯P
    #腐女子向け

    【飯P】ひとさらい 休日にも関わらず、僕は朝から大学の研究室に籠っていた。論文が行き詰まり、もう何週間も休みらしい休みもとれず過ごしている。
     季節はすっかり春で、いつの間にか空調を入れる必要もなくなっていた。眠気を誘われそうになり、窓を開けようかと考えたその時、まさにその窓を外から叩く音がする。三階の研究室だ、そんなことが出来る人はそう多くない。僕は早足に窓へ近付いて、鍵を外す。
     まさしく、今一番会いたかった人が、ピッコロさんがそこにいた。
     「休みの日にまで、ご苦労なことだな」
    「嬉しいな、よくここにいるって分かりましたね」
    「たまたま上を通ったら、窓からお前が見えた」
     中へどうぞ、と促したが、断られる。研究室は狭く、所属する学生がみんな荷物を好き勝手に積んで、まるで物置のようだ。客観的に見て、積極的に入りたい様相ではないし、寛げそうにもなかった。
     「忙しいのか」
    「ええ、ちょっと……こんなにいいお天気なのに、閉じこもってます、ずっと」
     春の空は白っぽく晴れて、日差しも穏やかだ。風はあたたかく、新緑も目に清々しい。神殿の石畳はきっと眩しく、花壇も花盛りだろう。だというのに、僕らは顔を合わせることすら、実に久し振りだった。
     ピッコロさんは窓枠へ腰掛けて、研究棟の裏側にあたる敷地を見回している。桜が綺麗だから花の盛りに招待すると、晩冬の頃に話していたのをふと思い出した。招待するどころか、なかなか会いにさえ行けないまま、花は既に満開だ。講義のない今日なら、学内に人は少ない。偶然とはいえ、ピッコロさんを招くにはぴったりの日和だった。
     桜は、研究棟の建物に沿って隙間なく植えてある。枝ぶりも立派な、なかなかの樹齢を誇るものばかりだ。狭い裏庭を窓から見下ろすと、その花盛りの桜たちに遮られて、地面も途切れ途切れにしか見えない。万一、誰かが通りがかったとしても、並木の下からピッコロさんの姿はきっと見えないだろう。
     「雲の上みたいですよね。でも、ピッコロさんは本当に雲の上に住んでるんだし、今さら珍しくもない?」
    「大抵の雲はこんなに近くにはないし、華やかでもない。見事だな」
     窓枠に片手をついて、桜並木へ向けて脚を浸すピッコロさんの姿は、薄暗い研究室の中から見ると何とも言えない風情があった。春を切り取った一枚の絵画のようだ。やわらかい風をはらんで、白いマントがゆったりと揺れる。
     僕はその隣で窓枠に肘をつき、一緒に桜を見下ろした。突然生じた穏やかな時間に、追われてささくれていた精神がほどけていくのが分かる。
     頬の赤い小鳥が何羽か集まって、枝の先で鳴き交わしている。桜のつぼみを啄みに来ているのだろう。僕らには心地よい明るい鳴き声だが……口笛によく似ている。この鳥の名の由来も確か、古語の「口笛」から来ていたはずだ。
     「ウソが集まってきてますね。小さくて丸くて、可愛いと思いませんか?」
     敢えて鳥を指さして、試すような心持で問いかけてみる。
     「見た目は良いが、どことなく、不快な鳴き声だな……」
     やっぱり。思った通りの返答で、ついつい笑ってしまい睨まれた。世界に怖いものなどないようなピッコロさんが、口笛などという子供の遊びにもならないようなものを嫌がるのは、何だか可笑しかった。とはいえ地球にも、口笛を恐れる文化がないわけではない。
     「夜に口笛を吹くと人攫いが来るって、知ってますか」
    「いや……」
     口笛、という単語を聞いて、ピッコロさんはあからさまに嫌な顔をする。きっとその響きを思い出してしまったのだろう。多少の嗜虐心もあり、僕は気付かぬ振りで続ける。
     「昔からそう言うんですよ。夜に口笛を吹くと、その音が人攫いを呼んで、攫われるって」
    「何故、そんなことを話す?」
    「いえ……毎晩いくら口笛を吹いたって、僕の人攫いは、逆に逃げちゃうだろうなって、思って」
     茶化すつもりで言ったが、ピッコロさんは思いのほか難しい顔をした。
     「……お前、それが分かっているなら」
    ピッコロさんが口を開いたところに、桜並木の下を、笑い合いながら駆けてくる者たちがあった。咄嗟に見下ろして、ピッコロさんはその姿を確かめたようだ。
     「この建物に入ったぞ」
    「ですね。桜でよく見えなかったけど……声は、この研究室の学生だったかも」
     ならば帰る、とあっさり言って、ピッコロさんは腰掛けていた窓枠から空へ躊躇なく立ち上がる。なんとも素っ気ない。久し振りに会えたのに、ほんの少ししか話せず、僕は名残惜しさでいっぱいになる。
     会えずにいて寂しかったのは、恋しかったのは、僕だけだったのだろうか? 窓から身を乗り出したまま声をかけあぐねていると、ピッコロさんは振り向かずに言った。
     「……分かっているなら、口笛なんぞ吹いて待たずに、お前が攫いに来い」
     僕は呆気にとられ、青白磁の空と薄紅の桜の雲に囲まれた後姿を見つめる。慌てて手を伸ばし、その手首を掴んだ。
     「もしかして今日、僕のうちへ行きました? それで、いなかったからここへ……通りかかったんじゃなくて、会いに来てくれたの?」
    「さぁ、どうだろうな」
    ちらと振り返った目は、かすかに笑っている。
    「人攫いが来たら、その時に教えよう」
     掴まれている手首を引き、つられて落ちそうになった僕を窓の内へ押し込んだ。
     「待ってて、今夜行きますから。口笛、吹いてなくても」
    「予告をする人攫いがあるか」
     今度こそ遠ざかっていく背中に手を振り、見えなくなるまで見守ってから、僕は書きかけの論文へ再度取り掛かる。
     お前が攫いに来い。予告をする人攫いもないだろうが、攫うよう要求する虜もないだろう。思わず口笛も零れそうな、高揚した気分だった。
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