触れて重ねて覆い隠して、月の涙をかたどって。ふたりきりの静かな部屋には毒にも薬にもならないニュース番組の音声が響き、数人分の笑い声が上がり、ひとり分の小さな鼓動と静かな呼吸音がそれを包む。ニュースの内容は専ら、今夜が見頃の流星群についてだった。
「知っているかな……今夜は数十年ぶりの流星群だろう。それに加えて月が青く光る夜だ」
「そうなんですか?」
「ああ。とても綺麗だよ。まるで月が涙を流しているように見えるんだ」
低く硬質な、平坦な声はテレビから発される人の声とは全く違う、なにだか不思議な魅力があった。だから女は彼の話を聞くのが大好きだった。この歳にもなって、おやすみなさいのお話をしてもらいたいと思ってしまうくらいには。
ただ、彼女はもう大人なので、そんなことをねだってはいけないと判断できる。だからそんな子供っぽい、恥ずかしいお願いについてはルーサーの知る所ではなかった。
1949