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    Mame_moyashiya

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    Mame_moyashiya

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    ル夢です。
    #リプきたセリフでSS書く
    「私の中で真珠になってくれませんか」
    で書かせて頂きました!

    触れて重ねて覆い隠して、月の涙をかたどって。ふたりきりの静かな部屋には毒にも薬にもならないニュース番組の音声が響き、数人分の笑い声が上がり、ひとり分の小さな鼓動と静かな呼吸音がそれを包む。ニュースの内容は専ら、今夜が見頃の流星群についてだった。

    「知っているかな……今夜は数十年ぶりの流星群だろう。それに加えて月が青く光る夜だ」
    「そうなんですか?」
    「ああ。とても綺麗だよ。まるで月が涙を流しているように見えるんだ」

    低く硬質な、平坦な声はテレビから発される人の声とは全く違う、なにだか不思議な魅力があった。だから女は彼の話を聞くのが大好きだった。この歳にもなって、おやすみなさいのお話をしてもらいたいと思ってしまうくらいには。
    ただ、彼女はもう大人なので、そんなことをねだってはいけないと判断できる。だからそんな子供っぽい、恥ずかしいお願いについてはルーサーの知る所ではなかった。
    女の手はルーサーの膝に乗せられ、大きなてのひらに包まれている。ごつごつとした、男のひとらしい骨ばった手だ。彼の手は冷たく、太い指にいくつも嵌められた指輪さえもがひんやりとしていた。
    そのせいで女の細い手がそのふれあいに火照るさまがすぐに浮き彫りになるのが恥ずかしくて、しかしその手を振り払えないのが惚れた弱みというものだった。
    好きだから、手を取られれば従ってしまうし口が裂けても嫌と言えないのだ。
    彼女は未だに手を取られるだけでこのように恥じらってしまうことを気取られたくなくて、話題を逸らすために彼の指輪に手を添えた。

    「ルーサーさま、たくさん指輪を持ってらっしゃいますね」
    「そうだね。お前も欲しいのかい?作らせようか」
    「いえ、そんなつもりは……」

    女の言葉を聞いて、なんと無欲な子だ……とルーサーは考えた。
    人の子というものはもっと欲にまみれ、貪欲に求めるものと思っていたから。かく言う自分も、古今東西の人間たちが切望して止まない磨けば光る石がお気に入りだった。
    この子に贈ってやるとしたら、何が似合うだろうか。

    「お前は何の宝石が好きなんだ。ガーネットか、アメシストか。白い肌にはオパールもよく映えるだろうね」
    「そうですね……強いて言うなら、真珠が好きです」
    「真珠。堅実だな。よく似合うだろうが、輝くような石は好まないのか」
    「そういうわけではないのですが、母が大事にしていたような、そんな気がするので……」

    ルーサーは確かに、彼女の母親が父親に贈られた真珠の指輪を大事にしていたのを知っていた。彼女はその時の……つまり、父が母にプロポーズした時の話を夜伽話にと何度も何度も母親にねだったのだ。彼女の記憶の奥底に、大切にしまわれた思い出のひとつだった。

    「生憎真珠の指輪は持ち合わせがないな。すまないね」
    「何をおっしゃるんですか」
    「他に、好きな物は」

    彼女はたっぷり黙って考えてから、ふっとため息を吐くように、押しとどめていた秘密を教えるようにささやいた。

    「……私、ルーサーさまの手が好きです。あの、頭に触れられる……のも、少し怖いですが、あれも」

    その言葉を聞いて、ルーサーは少し驚いた。そうか、あれを憶えているのか、と。
    この子が屋敷に来てから二回、三回と、彼女の「核」に触れている。
    例えばそれは彼女が辛く恐ろしい記憶を思い出してしまった時や、不安になってしまう出来事がおきた時。彼女が涙をこぼす度、それらを上から書き換えて、必要があれば別のものを埋め込み覆い隠してしまうのだ。

    彼女は私の幸福で、なればこそ記憶さえも幸せなものだけ持っていればいい。安らぎに悲涙など必要ない。
    屋敷に訪れ、長く存在すればするほどそれまでの人生が、過去が少しずつ薄れていく。彼女もいずれ、そうなるだろう。
    この子の記憶領域は、ゆっくりと私たちとの生活で埋まっていくのだ。
    最初は帰りたいとこぼしていたのがぱったりとなくなったのがその紛れもない証左。
    新たな記憶が何層にも重なりあい、新たな生を作り出す。

    「……可愛い子。指輪はいずれ考えよう。他に今、欲しいものは?」
    「では、その。お願いが」

    真珠貝というのは、異物を埋め込まれてはじめてその身の内に真珠をはぐくむ。
    それはまるで神の奇跡、あるいは悪魔の気まぐれか。

    「……今夜、私が眠れるまで……お話をして頂きたいんです」
    「その程度なら朝飯前だ。今回は夕飯後だが。月と星とを眺めながら、色んな話をしてあげようね」

    女はふふ、と小さく笑って、私の肩に軽くしなだれかかってきた。彼女は軽く、小さく、あまりにも純であった。

    ああ、私の大事な宝物。何より尊い愛しい子。その心のまろい輝きよ。
    どうか私という安全で堅牢な殻のなかで、うつくしい真珠になっておくれ。
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