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    ぽ む

    トョナォに狂いし者

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    ぽ む

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    アンケ一位をいただいた豊直with当て馬モブです
    こいつら本当に戦争中です??というツッコミは置いておいてください。
    捏造多数!キャラが濃ゆいネームドモブ!ギャグ100%!長い!(でもまだ前編)
    その他諸々にご注意ください。よろしければそのままどうぞー!

    異世界恋愛フラグをぶっ壊せ!!(前編)菅野は困惑していた。それと同時にキレてもいた。
    あからさまに引き攣った口角とピクピクと動く眉尻がその複雑な心境を全面的に顔に出してしまっているが、それを抑えることすらままならない。

    その全ての元凶が現在進行形で菅野に話しかけているこの男だ。シャイロック商会の中でも高い地位にいるらしいこの男、名をアステ=デウマという。提督と連合が結んだ飛龍への物資補給協定における実行部隊の指揮をとっている男なのだが、初めて菅野と顔を合わせて以来、何故かこうして用もなく話しかけてくるのだ。支給された物資の運搬を終えた後、実行班はすぐには戻らずに一度飛龍の上でグリフォンを休ませてから帰路につく。その間の数十分間を、菅野は毎度の如くこの男に纏わりつかれていた。
    最初は提督の上客だからと軍にいたころの経験を活かして当たり障りなく対応していた。同い年か少し下くらいの年頃のように見える青年は、菅野の何が気に入ったのか色々と質問をしてきては聞いてもいない自分のこともペラペラと喋る。最初はそれがなんだか微笑ましく、正確な年齢もわからないのにまるで弟のように感じていた。が、しかし。

    「ナオシさん」
    「なんだよ」
    「今日は殊更に寒いですね」

    などと言っては菅野の肩に触れ合うように隣に座ったり。

    「ナオシさん、その荷物私が運びますよ」
    「は?これくらい一人で…」
    「これでも下っぱの時は運搬作業をしていたんです。任せてください!」

    と言って菅野の荷物を奪っては、バチコンとウインクをかましてきたり。

    「ナオシさん、これうちで仕入れた結構いい酒なんです。ぜひ飲んでください」

    と貢物を寄越してきたり。(ちなみに酒は提督に没収された。)
    ナオシさん、ナオシさんと小麦色の肌を器用に赤らめながら話かけてきて、ついに本日。

    「ナオシさん、この後二人きりになれるところってありませんか」

    と、爆弾発言を落とされたのだった。
    菅野は冒頭の無理矢理取り繕った笑顔を顔面に貼り付け、飛龍にはそんな場所はないと圧をかけながら言い放った。しょんぼりするアステに補給の際はまたよろしくと機械的に別れを告げて早足で艦内へ戻る。
    まさかとは思っていた。なんとなくそんな気はしていたが、本当にそうだとは思わなかった。というより思いたくなかった。
    ズンズンと通路を進んで行った先、紫電改が安置されている格納庫にて。壁にダン、と強く拳を打ちつけながら菅野は心の中で絶叫した。

    あいつ俺に惚れてんのかよ!!!

    勘弁してくれ、と頭を掻きむしる。なんで惚れた。むしろどこに惚れた?どのあたりに好意を持たれたのかさっぱり分からない。それが逆に恐ろしかった。菅野は唸るようにズルズルと壁伝いに座り込み、面倒なことになった、と深い深いため息を吐く。
    シャイロック商会を始めとしたグ=ビンネンの物資は今の飛龍に必要不可欠だ。わんにゃん軍団もいれば協力してくれている騎兵たちもいる。何より、提督を始めとした漂流者たちもここには数名いるため、食料から日用品まで必要なものは山ほどあるのだ。
    その状況で補給の指揮をとっている人間が菅野に惚れているとなると下手に動くことができない。もしこれで菅野が内なる心にままに、「男なんざゴメンだバカヤロウコノヤロウ、ふざけんじゃねぇ!」とアステに殴りかかった日にはこの協力体制がどうなることやら。あの放蕩なれど出来息子と名高い商会トップのお気に入りの男にそんなことをしたら。想像しただけで気が滅入る話だった。
    穏便に、尚且つ菅野が被害なくこの状況を抜け出すにはどうしたらいいのか。ウンウンと頭を悩ませながら考え込む。当然ながらアステの求愛を受けるのはナシだ。ありえない。菅野は根っからの女好きなので男は全くもって願い下げである。だからアステの恋心を上手いことぶち壊すのが必須だ。そうするためには何をどうしたらいいのか。

    悩みに悩んだ末立ち上がった菅野は、覚悟を決めた表情で格納庫から出た。


    「おい島津」
    「…きさんか。何か用かの」

    刀の手入れをしていたらしい島津の前にデン、と仁王立ちになる。訝しげに菅野を見上げた島津の目線はすぐに刀に戻され、事も無げに用件を尋ねられた。相変わらずの仏頂面だな、と黙々と作業を続ける男を見下ろしながら菅野は息をつく。
    さて、その用件を如何に伝えてどうこの男に協力させるかが勝負所だ。頭の中で何度か想定したパターンを思い起こしながら、菅野はゆっくりと話し始めた。

    「協力してほしいことがある」
    「何ぞ、急に」

    この男にはあれこれ理由を説明する前に、サクッと大事なところを伝えた方がいいだろう。そう考えていた菅野は、至って簡潔に内容を告げる。

    「俺の恋人のフリをしてくれ」
    「あ?」

    そういう反応もまぁ仕方がないことだった。
    元々大きな双眸を更に丸く開きながら島津が固まっているのをいいことに、菅野は己の身に何が起こっているかを付け加えながら説明する。
    要するに我慢できずに協力相手をぶっ飛ばして同盟が破棄されないためにも上手いこと根回ししたいのだと言えば、納得しかねるように島津は眉間に皺を寄せた。

    「…男が嫌だち言うておるのに、俺となじみになるは可笑しかろうが」
    「仕方ねーだろ。ここには女なんざいねぇし、いたとしても恋人のフリしろだなんてヒデーこと言えるか!」
    「てそか。犬猫にせえ」
    「ふざけんな俺が獣に興奮する性的倒錯者扱いされるだろ!!いいか、お前は漂流者側の大将だ。当然向こうもそれを知っている。だから俺の相手がお前だって知ったらあいつも諦めるはずなんだよ。それとも俺があいつをブン殴って今の関係が壊れて暫く飯抜きになってもいいのか?飯だけならまだマシだけどよ」

    具体的にどう悪影響が及ぶかを言えば、流石の島津もむうと黙り込んだ。それを見て、菅野はここが攻め時とばかりに弁舌に力を入れる。

    「別に難しいことしろって言ってるんじゃねぇ。あいつが来たときに俺の側にいてくれりゃこっちで上手いことやるからよ」
    「…しょんなかこっじゃ。ほんのこち俺は何もせんぞ」
    「オウ。ま、簡単な指示は出させてもらうけどな。基本は呆っと突っ立ててくれりゃいい」

    ヨシ、と菅野は心の中で勝鬨を上げた。島津の協力を得たのあればもはや勝ち筋は見えたも同然である。次の補給でアステが来た際に島津とやんごとない関係であることを匂わせ、そしてそのまま恋心を諦めてもらう。完璧な計画だった。好意を寄せてもらうのは嬉しいことだが、そこにケツが絡んでくるのであれば話は全く別である。アステは過去に肉体労働をしていただけガタイがよく、菅野よりも上背があるから狙っているのは恐らく菅野のケツの方だろう。そう思うだけで身震いがした。
    ゾワリと鳥肌が立った腕をさする菅野に、心底面倒臭いですという顔をした島津が「刀の手入ればしとる、用が済んだなら去ね」と言い捨てる。その言い草にカチンときた菅野だが、ここで足を出してせっかく取り付けた協力が消えてなくなるのは避けたいと怒りを堪え、フン、と鼻を鳴らしその場を立ち去った。

    あとは次の補給日を待つばかりである。


    ────────────────────────────


    来たる決戦の日。
    いつも通りにやってきたグリフォンから積荷を下ろし、犬猫たちが物資を艦内に運搬するのを指示しながら菅野はチラリとアステの方を見た。以前はキラキラとこちらを見ていた瞳が変にギラついているのに思わずゲ、と呟く。もはや相手も取り繕う気がない様だ。
    頼むグリフォン共、早く体力回復してこいつを拠点に戻してくれ、と甲板に並んだグリフォンに目を向けるが、疲れた様子のグリフォンは日光のよく当たる場所でもぞもぞと首を羽に埋めてお昼寝体制になっている。クソ、と何度目かの悪態をついて、菅野は潔く腹を決めた。ついに開戦である。

    最後の物資を運び終わってアステが菅野のところに来る前に、近くに島津を召喚しておくのが第一関門だ。それを難なくクリアし、菅野は大口開けて欠伸をしている島津の腕を掴んで艦内の人気のないスペースに移動する。きっとアステは己を探して艦内を彷徨くだろう。本来なら部外者は立ち入り禁止なのだが、物資補給における打ち合わせやら貯蔵量の確認やらでアステとそのお供の数名のみ飛龍に立ち入ることを許可されている。その特権を利用してきっと来るはずだ、と菅野は当たりをつけた。
    島津と恋人のフリをしていることは提督やスキピオ、犬猫にはもちろん告げてない。ていうか言えるはずがない。だからこうして人影のない所まで来たのだが、そこも逆に逢瀬っぽさを醸し出せているだろうと計略を練ってのことだった。
    辿り着いた場所で壁にもたれて寝そうな島津はもう放置でいい。アステは普段から質のいい革靴を履いていて、鋼鉄の床を歩くとやけにコツコツとした音が響く。その音が近くに来たら後は行動を起こせばいい。
    菅野がジッと獲物を狙う鷹のように神経を研ぎ澄ませていると、やがて先ほど来た道から想像していた通りの足音が聞こえ始めた。
    来た、と思うや否や菅野は即座に島津の横に移動する。鼻ちょうちんを膨らませてガーガー寝ている男にコイツ…と眉間の血管がピキ、と音を鳴らしたが、ひとまず良しとしよう。隣り合わせに座り込み、爆睡している島津の頭を菅野の肩に乗せる。ずしりとした重みが右肩を襲うがこれもほんの少しの我慢だ。頭を掴んだ時に一瞬目を覚ましたらしい島津だったが、数秒もすれば菅野の肩でまたイビキをかきながら寝始める。異常なまでの寝つきの良さに菅野は呆れながらも、再度近づいてくる足音に耳を澄ませた。謎の緊張感が場を支配する。

    やがて視界に映る距離までやってきたアステは、目を瞠りながら菅野に声をかけてきた。

    「ナオシさん。こんなところにいたんですね。…シマヅさんも一緒だったんですか?」
    「まぁな。今は枕役をしてやってんだよ」
    「そうだったんですね…」

    おうよ俺とコイツは恋人なんでな!とは口が裂けても言えない。男と恋人であるだなんて嘘でも菅野の口は言うことを拒絶しているので。それに口先だけなら何とでも言えるから信憑性がないというのもある。だからあとはもう察してくれと言わんばかりにヤケクソになって、菅野は島津の頭にコテ、と寄りかかりながら「俺も寝るわ。また今度な」と無理やり目を閉じた。
    そうですか、と残念そうな声で去るアステに僅かに、本当にカケラ程度の罪悪感が菅野の胸の内に湧くが、惚れた相手が悪かったと思って欲しい。
    少しすると遠ざかる足音が聞こえなくなり、大きく息を吐いた菅野は立ちあがろうとして肩に乗っけたままの島津の頭をズン、と床に落とした。

    「…っ!きさん、何すっが」
    「終わったんだよバカヤロウ。人が気ィ揉んでたのにガーガー寝こけやがって」
    「何じゃ、こん程度であいは諦めよるんか」
    「そりゃ次会ってみないとわからねーけどな。結構しょげてたし効果はあったろ」

    菅野への恋心を完全に潰せなかったとしても、島津という存在がある程度抑止力になれればいいのだ。
    そうか、と興味なさそうにまた眠りにつこうとする島津を横目に、菅野は本作戦の成就を祈った。


    …まあ結論から言うと失敗だったわけだが。

    「ナオシさんはシマヅさんと仲良しなんですね!いつも言い争いばかりしてたから分かりませんでした…。これ羊毛の布なんですが、良ければ昼寝の時使ってください」

    例の作戦決行から数日が経った今日。白い歯をキラリと輝かせながらアステはそう言い、やたらともふもふとした布を菅野に手渡してきた。それだけで結果はもはや知れたも同然である。
    固まる菅野にバチンとやたらと手慣れたウインクをかまし、アステは物資補給の指揮へと戻っていった。その背中を呆と見送りながらも、菅野の頭の中は狂乱狂騒大騒ぎである。
    菅野と島津をただの「友人関係」としてしかみていない、ということは今ので分かった。まぁ一回添い寝してるところを見せつけただけだし、仲が良いだけだと不発に終わったのは残念だが仕方ない。いっそのこともう恋人だとホラを吹いてやろうか、とも思ったが、これまでそういった兆候が全くなかったにもかかわらずそんなことを言ったとして信じられないだろう。疑問を持ったアステが犬猫や提督に本当かどうかを聞きに行くとなると困る。非常に困る。いや説明すれば犬猫も提督もローマ人も分かってくれるかもだが、協力者が多くなればその分作戦がバレてしまうリスクも高まるのだ。そうなった時に飛竜ぐるみで欺こうとしていたなどと悪印象を持たれるのは同盟である以上避けたい。ならば菅野と島津の関係は仲間にも内密なもので、とした方がボロが出ないだろう。

    やはり島津を利用しての恋人(仮)作戦を続けざるを得まい。そう考えた菅野は、その日の補給中に島津にひっついたりちょっかいをかけたりする様子を頑張ってアステに見せつけた。どん、と肩をぶつけて横に陣取ったり、頬をぶすっと指で刺してみたり。島津は鬱陶しそうにしていたが、眼力で圧をかければ協力すると言ったことを思い出したのか菅野の好きにさせてくれた。武士に二言はないのである。
    しかしそんな様子を見てもアステは「仲良しですね〜」とニコニコこちらを見ているだけだった。明らかに微笑ましいものを見る目である。そのくせ菅野が島津から離れて一人になった途端、あのギラついた獣のような目を向けてくるのだからたまったものではない。最後の方は菅野も鬼のような形相になっていたらしく、犬猫たちが怯えて尻尾を股の下にしまい込んでいた。

    それでもなんとか今回分の補給を無事に終え、元気一杯になったグリフォンが苦悩の元凶を連れ去ってくれたものの、全然作戦が効いてないことに菅野は頭を抱えていた。
    このままではまた次の補給時に心身を削ることになりかねない。それにアステが辛抱ならず実力行使してくる可能性も否めなかった。そうなったら菅野は絶対にカウンターを決めるので同盟崩壊待ったなしである。

    と、いうことで。

    「接吻するぞ」
    「せっぷん?何ぞ、そいは」
    「あー昔はなんて言ったんだっけか…。ああ、口吸い?」
    「は、」

    作戦会議と称して押しかけた島津の部屋で、菅野は腕を組みふんぞり返りながら宣言した。それを受けて、簡易的な寝台に腰掛けた島津が理解不能といった様子でポカンと口を開けている。

    「…俺と契るち言うんか」
    「んなワケあるか。別に本当にするんじゃねーよ。フリだよ、フリ」

    菅野の作戦はこうだ。
    いつも通り補給を終え、グリフォンのお昼寝タイムが終わるまでの数十分。その間にアステは再度菅野を求めて艦内にやって来るはずだ。そこで事前に調べておいた袋小路の狭い通路に島津を奥側にして立ち、その前で菅野が顔を寄せれば背後からは接吻をしているように見える、というものである。
    この決定的な光景を見れば流石のアステも菅野と島津の関係を察知し己の恋心を諦めてくれるだろう。完璧な立案に菅野の機嫌も絶好調だった。

    「廃城への物資の支給も始めるらしいからな。その打ち合わせもあってあいつが飛龍に来る頻度はこれまでより高くなる。そうなる前に決着をつけておきてぇ」
    「………」
    「んな明から様に嫌そうな顔すんじゃねーよ。礼なら考えといてやるからさ」

    夕飯のパンでも分けてやるか、と次の作戦の完勝を信じてやまない有頂天の菅野に、島津は頬杖をつきながら隠すことなくデカいため息を吐いた。


    ────────────────────────────

    これでようやくこの苦悩の日々ともおさらばである。
    飛龍の中にあるちょうど良さげな通路の奥で、菅野はこれまでの苦労が報われる喜びを噛み締めていた。補給が終わりアステに捕まる前に颯爽と島津を確保し、そのまま事前に下見をしていたこの通路に引き摺り込んで準備は万端。あとはあの靴音が近くまで来た瞬間に目の前の仏頂面の男に顔を寄せ、そのまま数秒維持していれば任務完了、完全勝利である。
    よし、と気合いを入れた菅野に島津は眉間に皺を寄せながら「はよせんか」と文句を言ってくるが無視だ。というかまだアステが来てないのに何を言ってるんだこの戦国大名は、と片眉を上げつつ、菅野は遠くまで耳を澄ます。ここまできて失敗はできないので好機を逃すわけにはいかない。
    やがてコツコツと気取った足音が聞こえ始め、ここだ!と菅野は爪先に力を込めて背伸びをし目の前の島津の顔に近づいた。これで通路の入り口の方からは菅野と島津がまるで接吻をしているかのように見える、はずなのだが。

    「………」
    「………」

    なんで目かっぴらいたままなんだコイツ。
    閉じかけた瞼を釣られるようにして見開いた菅野と、大きく爛々とした島津の瞳がかち合う。フリだとしても接吻するって言ってるのになんで目を閉じないんだ、と思わず口に出しそうになったが、すでに近くまで来ているであろうアステにその声を聞かれるわけにもいかなかった。これではただただガンつけ合っているようにしか見えないだろう。島津と菅野との間に身長差がある分、通路の入り口からだと島津の表情が見えてしまうのに。
    目閉じろよ!!と菅野が目線で訴えても島津は何のその。ただジッと菅野を見つめてくる島津とそれを見つめ返す菅野という謎の構図が出来上がっていた。その間に通路の入り口までやってきていたらしい足音は数秒止まり、何拍か置いた後早足でその場を離れていく。
    その音が聞こえなくなると同時に菅野の額の血管がブチ、と音を立てて浮き上がった。

    「テメェ島津ゥ…!!口吸いだっつったろーが目閉じろや!!それともなんだ?昔はお互いガン見したままするのが主流だったのか?!んなわけねーだろフザケんな!!!」
    「何じゃ。何もせんでいいち言うたんはお前ぞ。感謝されても文句を言われる筋合いはなか。ぎを言うな」

    コノヤロウ…!!と菅野の怒りが頂点に達しようとしたが、よくよく考えたらもしかしたらアステにはちゃんと接吻しているように見えていたかもしれない。この通路は日差しもほぼ届かなく薄暗いため、島津の表情まではちゃんと見れなかったかもしれない。
    そんなほんの少しの希望があると思えばここで一概に失敗した、島津が悪いと言い切るのは時期尚早かと思え、菅野は舌を打ちながらも効果のほどを確かめるためにズカズカと甲板へ向かった。

    そこにはすでに目当ての人間が戻っていたようで、仲間とグリフォンの調整をしているアステの姿があった。アステは艦内から出てきた菅野を見た途端に表情を変え、慌てて駆け寄ってくる。さてどう出るか、と菅野が構えていると、アステは無遠慮に菅野の肩を掴みながらこう言い放った。

    「ナオシさん!大丈夫だったんですか?!さっき島津さんと通路でめちゃくちゃ睨み合いの喧嘩してましたよね…怪我とかしてないですか?」

    島津あのヤロウ。
    またも不発に終わった作戦の失敗を嘆きながら、菅野は島津への怒りをつのらせた。


    ──────────────────────────


    「いいか今回は絶対目ェ閉じろよ…!二度あることは三度あるとは言わせねーからな!」
    「やぞろしか。そう何度も言わんでん分かっておるわ」

    渋々といった様子の島津を再度この通路に連れてきたのはもちろん、再挑戦のためである。あの後ただ二人が喧嘩していただけだと勘違いをしたアステの誤解(誤解ではないのだが)を解く暇などなく、グリフォンに乗って帰る直前のアステに仰々しく手を取られ「次はもっとゆっくりお話ししたいです」と死刑宣告のようなものを受けた菅野はもうなり振り構っていられなかった。
    アステの飛龍訪問の頻度が高くなっているのに比例して菅野の身の危険度も高まっている。暴力で全てを解決してしまう前に何とか穏便に済ませねばならない、というかそろそろ菅野の堪忍袋の緒が切れそうだった。
    前回はただの喧嘩だと思われてしまったため何もならなかったが、今度こそはちゃんと接吻のように見せかけてみせる。次の補給日が決まった時から菅野の決意は熱く燃えていた。
    そしてついにその時が来て、またこうして例の通路に犬猫払いも済んだ上で配置についているのである。
    ここで絶対に決めてみせる、と意思を堅くもった菅野はひとまず島津の目を先に閉じさせることにした。まだアステの足音はしないが、今のうちに島津の準備を整えておかないといざという時に何をしでかすのか分からないので。
    前回菅野にギャーギャー騒がれたのが大分癪に障っていた様子の島津であったが、さっさとこの茶番を終わらせようとしてか素直に指示に従い目を閉じた。それを見て菅野も満足気に頷く。あとは頃合いを見て菅野が島津に顔を寄せ、そのままアステが来るまで静止していれば万事解決だ。

    しばらくするとあの革靴の音が聞こえ始めたので、ちゃんと接吻中だとわかるように体勢を調整しつつも菅野も目を閉じ背伸びをする。別に菅野が目を閉じる必要はないのだが、島津に目を閉じさせているのにこちらがしていないのは何だか気持ちが悪い。そう思っての行動だった。

    そのせいで島津がそっと目を開いたことに菅野は気づかなかったのだけれど。

    「…きさんに任せちおると何時(いっ)迄(ずい)も終らんど」

    ボソリ、と呟くようにこぼした島津に「は?」と菅野が聞き返そうとした瞬間。
    パカ、と開いた菅野の唇を捕食するかのようにして、島津が噛み付いてきた。

    「ッんん?!!」

    思わず腰を引いて逃げようとする菅野を大木のような腕で拘束しつつ、島津の猛攻は止まらない。唇同士を擦り合わされ、上唇と下唇を交互に吸われる。ちゅう、という可愛らしい音とは裏腹に呼吸の間合いも分からないような止めどない口吸いに、菅野の思考は真っ白になって停止した。
    それを好機と見たのか島津の目が細められ、本能的に危機を感じた菅野が腕を突っぱねようとしたが間に合わず。
    ぬる、とした何かが菅野の口内に侵入してきたのと同時に、菅野の頭が一気に覚醒した。

    「ッこんのッバカヤロウがァァアアアアッッッ!!!!!!」

    火事場の馬鹿力とも言える渾身の頭突きが島津の顔面にクリーンヒットする。打たれた箇所を片手で抑えながら島津がよろめいた隙に菅野は島津から距離を取り、そして得意の足技でトドメの踵落としを繰り出した。が、それを皮一枚で回避した島津からの反撃が飛んできて吹っ飛ばされる。

    「ぐ…ッコノヤロウ!!」
    「協力てやっておるに、無礼(じも)ね奴じゃの」
    「ハァ?!テメェ今自分が何したのか───」


    「あの!お二人とも喧嘩はやめてください!」


    あ。と、目的の人物のことが頭からすっかり抜けていた菅野の呆けた声が通路に響いた。


    ───────────────────────────


    当然の如く作戦は失敗も失敗、大失敗である。
    肝心のアステにはただただ喧嘩をしているところしか見られておらず、しかも仲裁までされるという始末。提督にも報告がいってしまい菅野と島津は反省するようにと何故か一緒の部屋にポイと入れられた。
    それでも菅野の怒りは収まらない。島津が余計なことさえしなければ、ていうか何勝手に口吸ってきてんだテメェと憤怒がグツグツと煮え滾っており、反省部屋の中で早速反省せずに島津に掴みかかった。

    「お前のせいでうまくいきかけてたのが全部台無しじゃねぇかどうしてくれんだよバカヤロウ!!」
    「何を言っか。きさんが暴(すば)とせんかったら済んでおったわ。口吸い程度でやぞろしか」

    はン、と鼻を鳴らしまるで自分が悪いなどと到底思ってもないような島津に菅野は怒りを通り越して呆れ返ってしまった。なんでコイツに協力を頼んだんだと自らの選択を悔いていると、菅野と違い平然とした様子の島津に「オイ」と声をかけられる。

    「んだよ、今次を考え…ング?!」

    菅野が島津の方を向いたと同時に視界に入ったのは大きく開かれた島津の口で。その突然の光景にピシャリと固まっていると、またもや菅野の唇は島津のそれに塞がれた。

    「んぅ、ッん!」

    なんなんだコイツ何考えてんだ、と菅野は必死に目の前の身体を突っぱねようと腕を身体同士の間に捩じ込み抵抗したが、ガシリと後頭部を掴まれ引き寄せられてしまう。バランスを崩して意図せず島津に寄りかかるような体勢になってしまったのも相まって怒りが増し、また舌入れてきたら噛みちぎってやると敵意を募らせているとそれを察知したのか島津はすぐに離れていった。

    「っは、はぁ…ッ!さっきから何なんだよコノヤロウ!ふざけるのも大概に…」
    「そいがいかん」
    「ア"ァ?!」
    「『なじみのフリをしろ』ちきさんが言うたことぞ。なじみと口ば吸うのにそげん嫌がる阿呆がおるか。取り繕ってもあげな子供騙しなぞ直(いっ)き見破られて終いじゃ」

    ぐうの音も出ないほどに正論だった。菅野は思わず押し黙る。
    確かに島津の言う通りあんなやり方では騙せないのかもしれない。じゃあどうしろってんだと言い捨ててやろうとして、菅野はふと島津の考えていることがわかった気がした。嘘であってほしいが。

    「……俺に恋人同士みたいな接吻をしろって?」
    「応」

    嘘じゃなかった。菅野は思わず卒倒しそうになったが、ここまできたらもう背に腹は変えられないという気持ちもある。今日去り際に見たアステの欲を燻らせた瞳を思い起こすだけで、背中から首の裏までの産毛が総立ちになるくらいには菅野は追い詰められていた。もうやるしかないのか、と深く息を吐いて力なく了承すると、島津は何故か満足そうに「良か」と頷いた。

    そもそも男とこういうことをするのが嫌だから頑張っていたのに、というのはもう考えないことにする。菅野が虚しくなるばかりなので。


    しかしここで新たな問題が浮上してくる。よし、それでは恋人同士っぽい接吻をしましょう!と言って菅野がすぐに切り替えられるわけがなかった。島津がまた唇を合わせてきたら条件反射的に拳が出る自信が菅野にはある。そう告げると島津は珍しく考え込み、ある作戦を提案した。
    作戦と呼べるものかどうかは置いておくとして、内容としてはただひたすらに菅野が慣れるまで練習をする、というものであった。アステが次に補給と打ち合わせを兼ねてここを訪れるのが六日後。その間に何としてでも形になるような恋人同士の接吻を習得しなければならない。
    菅野は異世界に来てまで何をやってるんだ俺はと一瞬現実から逃げ出したくなったが、一度腹を決めた以上やり遂げねばならないと生来の真面目な気質のせいで、こうして島津の部屋を訪れていた。

    「先に言っておくが絶対に手出るぞ俺ぁ」
    「…ちった堪(た)ゆっ努力をせい」

    練習初日。
    狭苦しい個室の中でお互い向かい合うこと早数分。接吻することは千歩譲って了承したものの、自分からするなんてことは万歩譲っても菅野にはできなさそうなので島津に任せることにした。丸投げともいう。
    ん!と仁王立ちのまま目を瞑って好きにしろやと言い放つと、隠す気もないため息を吐きながら島津は菅野の頬に手を当てた。それだけで少しムズ、とした感覚があるも何とか耐えていると、やがて唇に柔らかいものが押し付けられて、そして。

    「だあああああああッッっぱ無理!!!!」

    案の定我慢できなかった菅野の正拳突きが島津を襲った。それを綺麗に顔面に受けた島津がピキリと血管を鳴らし、全く同じように菅野の顔面にカウンターを炸裂させてくる。結局この乱闘はしばらく続き、ようやく落ち着いた頃になってお互い鼻血を垂れ流しながら唇を合わせる羽目になった。フリとはいえ恋人同士でこんな血生臭い接吻するのはおかしいだろ、と菅野は痛みで鈍る頭で考えたものの、もはや抵抗する気も起きなかったのでそのまま続行する。接吻への忌避感よりも鉄の臭いが鼻腔にこびりつくことへの不快感の方が強かったのは逆に良かったのかもしれないが。その後は怪我をしていることもありこの日は解散したものの、先行きは不安としか言えなかった。


    練習二日目。
    昨日の反省を生かして菅野はひたすら我慢した。暴れそうになる身体を強い意志で何とか抑え込み、まるで彫像にでもなったのかというくらい微動だにしなかった。そしたら島津に「こいじゃ人じゃなく物と口ば吸うておるようじゃ」と苦言を呈され、テメー俺の努力を何だと思ってやがるとまた喧嘩に発展しそうになったのも何とか堪えた。ここで暴力をしては昨日の二の舞である。その状態でしばらく島津に唇を吸われたり擦り合わされたりを繰り返していたら、段々と肩の力も抜けてきてこれまであった嫌悪感もそこまで感じなくなっていた。ちゅ、ちゅ、という軽い挨拶のような口吸いだからかもしれないが、これならいけるのではと菅野が期待を膨らませていると。
    ぬるり、としたものが菅野の唇を割った。
    瞬間放たれる菅野の右フック。しかしそれを読んでいたのか、島津は軽くヒョイと避ける。

    「舌入れる必要はねーだろ!!!」
    「なじみと口ば吸うのに入れんわけないじゃろ。騙すち言うなら万事徹底せい」

    わかったか、とまるで菅野が間違っているかのような面持ちで言い放つ島津に菅野はなんで俺が怒られてんだ…?と一瞬理解が及ばなかったが、中途半端が一番良くないこともわかっているので結局は苦渋の決断をすることになった。もう何とでもなれ。


    練習三日目。
    唇を合わせるだけの接吻は難なく乗り越えられるようになったが、その先が問題だった。ぬる、と潜り込んでくる島津の分厚い舌に歯列をなぞられるとゾワゾワとした感覚が背筋を走り、耐えきれなくなって唇を離す。名誉のために言っておくと別に菅野が慣れてないわけじゃない。これまでだって女人相手に何度もしたことはあった。が、過去に経験したそれらとは全く違い、島津の口吸いは本人の気質に似てるのか激しく口内全てを蹂躙せんとしてくるのだ。菅野の舌もヒリつくくらい吸われてしまい、島津の動きについていくのがやっとである。それが男としては非常に悔しいが現状は耐えるしかなく、時折休憩を挟みつつも菅野は必死に食らいついていた。
    そんな菅野の思いも露知らず、島津は肩で息をしながら呼吸を整える菅野をジ、と瞬きすることなく見つめている。そして、何を思ったか菅野の腕を手に取って自身の首に回させるように誘導した。

    「…あ?何だよ」
    「こん姿勢の方が良か」

    島津自身も菅野の腰と背に手を回して引き寄せてくる。ぴたりと引っ付くと島津の体温が服越しでも肌に伝わり、トクトクとした鼓動すらも聞こえてくるようだった。
    確かにこの姿勢の方が恋人同士に見せかけられるな、と酸欠に等しい頭で考えた菅野は特に抵抗することもなく。再度顔を寄せてきた島津の唇を受け入れるように目を閉じた。


    練習四日目。
    菅野は自分がすべきことを一連の動作として身体に染み込ませることにした。まず最初、島津が菅野に顔を寄せてきたら首か背に手を回し受け入れ体勢をとる。これでアステにこの行為が合意であることをアピールをするのだ。そして次に唇が重なったら、軽く戯れるように吸い合う。島津はしょっちゅう菅野の上唇を吸うので少し口を開けておくと尚良し。そして舌が入ってきたら島津の動きに合わせるようにして絡めていけばあとはもう流れで何とでもなるので問題なしだ。
    今日も今日とてこうして唇を重ねているが、昨日は所々で休憩を挟まないと長くできなかったものが今では連続してできるようになっていた。菅野と島津のどちらもがお互いのペースを掴めた、というのが大きいのだろう。どこをどうしたらいいのか、何をどうするのが好きかを把握された上で行う口吸いというのは思いの外心地良く、菅野は自身の口内を這う舌に己のものを絡ませた。

    「ん、んん、ぅ…」
    「…ん、舌ば出せ」

    言われた通りに菅野がべ、と舌を突き出すと、そのまま空中で絡め合わせられる。ちゅくちゅくと唾液が泡立つ音が響く中で、表面を擦り合わせたり舌先を合わせてみたりと戯れが続いた。満足いくまで絡ませた後、つう、と糸を引いて菅野が離れると、再度島津にグイと引き寄せられて口内を満遍なく犯される。
    もうとっくに夕飯の時間だったが、犬猫が呼びにくるまでこの日の練習は続いた。


    練習最終日。
    もう練習とかいらないだろと思いつつも菅野は島津の部屋を訪れた。まぁ本番では何があるか分からないし、言うてまだ五日目だし。と、言い訳ばかりを頭の中で考える。
    島津も島津でやって来た菅野を拒むことなく、何なら前日よりも性急に触れてくるので菅野は心の内で笑ってしまった。女日照り恐るべし。

    「は、ん…っん、ぅ…」
    「…良か、上手(じょし)なったの」
    「、ぁ?バーカ、元から上手いんだっての」

    減らず口を、と文句を言いながらも島津は菅野の唇に何度もかぶりついた。菅野も負けじと島津の薄く形の整った唇を吸ってやると、見事に煽られた島津が舌を差し込んでくるのでそのまま深く結び合う。菅野の体温と島津の体温が口の中で溶け合って一体になるような感覚が異様なまでに気持ちいい。これ明日の作戦が上手く行ってもやめられるのか?と菅野は一抹の不安を覚えたが、意識を逸らしたのを咎めるように島津に弱点を攻められ、あとはもう思考を放棄してただただ口を吸い合った。


    ─────────────────────


    そして運命の六日目である。
    正直なところ、菅野には作戦が失敗する未来が見えなかった。自意識過剰などではない。というかそのための練習の日々だったのだから。

    前回と同じ通路に島津と並び立つ。前は島津を通路の奥に立たせて入り口からは菅野の背が見えるような位置だったが、今回は違う。接吻のフリではなく本物をアステに見せつけてやるので、菅野は通路の側面の壁を背にして島津を見上げるようにして立っていた。ついにここ数日の練習の成果を発揮する時が来たのだ。
    上手くいけば島津と菅野が出来てると勘違いしたアステは失恋、たとえ周りにこのことを言いふらしたとしてもその時はシラを切ってやればいい。ようやく菅野も安心して戦に臨めるというものだ。失うものは、まぁ、ウン、結構あったけれど。

    もうすぐ打ち合わせを終えたアステが性懲りも無く菅野を探しにやってくるはずだ。小洒落た革靴の音がいつ聞こえてもいいように菅野が神経を張り詰めさせていると、それまで無言だった島津が突然口を開いた。

    「今回のこちゃほんのこて苦労したど」
    「あ?わかってるって。礼ならしてやるからよ。何欲しいか考えといてくれ」

    確かに付き合わせ過ぎていると言う自覚は菅野にもあったので罰が悪い。礼をするのは当然として、まぁコイツのことだ。どうせ食いもんだろう、と菅野が高を括っていると。

    「言うたな?直」
    「は、」

    島津の両手が飛行帽の上から耳を塞いでくる。初めて島津に名前を呼ばれたことに対する驚きで菅野が硬直していると、そのままグイと顔を持ち上げられた。
    それだけで島津が何をしようとしているのか分かった菅野が慌てて両手を外そうとするが到底間に合わず。アステが近くにきているのかどうかも分からないままに、島津によって強引に口付けられてしまった。

    「んッ!?んん、んぅッ!」

    ドン、と肩を叩くが島津は目を細めるだけで止める気配がない。耳を塞がれたせいで靴音がしてるのかどうかも分からず、菅野はただ翻弄されるように唇をこじ開けられた。じゅる、と舌を吸われる音が脳内にダイレクトに響き渡る。捩じ込まれた島津の舌が奥で縮こまっていた菅野のそれを絡め取り、いつものように口内を蹂躙してきた。溢れた唾液が顎を伝うのを感じながらも、菅野は島津の肩を叩いていた手を反射的にその背に回してしまう。こんな時にまで身体に染み込ませた練習の成果が発揮されてしまうとは。ぎゅうと縋るように抱きついてきた菅野をふ、と鼻で笑った島津は心底腹立つが、アステが今どこまで来ているのかも分からない以上このまま続行するしかない。

    ぐちゅ、ぐち、と口内をまさぐられる音が直接的に頭に響く。ずっと菅野の耳を塞いでいる島津の狙いがアステがいつ来るのかを菅野に悟らせないためだとしたら随分と悪趣味だ。眼光を鋭くして睨みつけると一瞬動きを止めた島津だったが、その後何事も無かったかのように目を瞑って菅野を貪り始める。練習の時ですら大抵目をかッ開いてたクセにこういうときは閉じるのかよムカつく、と菅野が怒りを込めて島津の舌を甘噛みすると、眉間に皺を寄せた島津が口内を舐る動きを早めた。淫猥な音がずっと鳴り響いていて、注ぎ込まれる唾液を嚥下することもままならない。菅野がふうふうと必死に息をしながら島津の動きに合わせていると、一瞬、島津の目線が通路の入り口に向いた気がした。
    やっと来たのかと思って菅野も釣られてそちらを見ようとするが、顔を挟むように押さえつけてくる島津の両手がそれを許さない。コノヤロウ、と心の中で文句を言いながらもひとまず恋人ですけど?アピールをするために島津の背に回した腕に力を込めれば、それまで一方的だった島津の動きも菅野をあやすような甘さを伴ったものに変わっていった。

    どれくらいそうしていたのだろうか。もういなくなったか?と菅野が視線を入り口に向けようとしても悉く島津に妨害され、ひたすらに口吸いを続けられている。いやもう絶対いないはずだ、こんな長時間も人が接吻をしてるところをガン見するようなヤツだったら別の意味で怖すぎる、と菅野が終了の意味を込めて島津を引っぺがそうとするも目の前の男はびくともしない。やがて耳を塞いでいた両手をようやく外されたかと思えば、そのまま背に回った腕に引き寄せられまたも強引に口を割られる。抵抗したこともあってか息を吸うタイミングを逃しに逃し、菅野はもう酸欠寸前だった。
    これ明日になったら絶対唇腫れてるだろ、と菅野が謎の心配をし始めたあたりでようやく満足したのか、ちゅう、と最後に舌を吸われてようやく解放される。
    全力疾走したかのようにゼーゼーと息を切らせる菅野の頬を撫で、随分と機嫌の良いらしい島津が再度唇を合わせるだけの接吻をしてきた。

    「こいで十分じゃろ」
    「はーっ、は、てめ、っ、マジで、しつけーんだよ…!!」

    ようやく解放された口で文句を言うがそれ以上のことはできず。というより途中から腰が抜けていたせいでズルズルとしゃがみ込んでしまった菅野を見下ろし、島津はまたも満足げに「良か」と呟いた。


    ───────────────────



    間も無くグリフォンの出発時刻になる。
    なんとかその前に本日の成果を確かめないと、と思った菅野は震える足を叱咤して立ち上がり、手ば貸すか?と呑気に聞いてきた島津をぶっ飛ばして甲板まできていた。
    終始耳を塞がれていたのでどの瞬間に来ていつ離れたのかは分からないが、アステは確実に見ていたはずだ。
    その上でどう出るかを確かめ、次の来訪の時までに策を練らなければならない。と言っても相手がいると知ったら(しかもあの島津だ)普通は諦めるとは思うのだが。この世界の恋愛観が余程おかしくない限りは大丈夫なはずである。

    そう思いながら目的の人物を探すと、アステは丁度良く1人でグリフォンの手綱をつけているところだった。その姿を見つめていると向こうも菅野に気づいたのか、一瞬表情に翳りを落としたもののいつもの笑顔でこちらに駆け寄ってくる。

    「ナオシさん」
    「ぉ、おう。もう行くんだな」
    「はい、あと数分で。今部下が記録をまとめている最中で…。あの、聞いてもいいですか」

    来たか、と菅野は緊張で乾いた唇をひと舐めし、続きを促す。

    「私、見てしまったんです。さっき通路でナオシさんとシマヅさんが、その、キスしてるの。お二人はお付き合いをされてるんですか…?」
    「…まぁ、そうだな」

    ここで否定してはおかしい事になるので素直に肯定しておく。そう、菅野は恋人持ち。片思い相手には不向きなのだ。なのでさっさと諦めてくれと期待を込めてアステの目を見た瞬間、叫ばなかった自分を菅野は褒めてやりたかった。先ほどまで憂いを帯びていた瞳が、例のギラギラとしたものへと豹変している。焼きつくような瞳を揺蕩わせながらガシリと肩を掴んできたアステに菅野は思わず拳を握った。出方次第ではもうダメだぶん殴ってやると心に誓っていると、わなわなと震えた声色でアステが話し始める。

    「それでも私は…私はナオシさんが好きです!けどシマヅさんとの仲を壊してやりたいだなんて思いません」
    「お、おう…?!」
    「でも諦めきれないんです!だから、だから私を、」

    「二番目の彼氏的な立ち位置においてくれませんか?」
    「バッッッッカじゃねぇの??!?!!!」

    思わず顔面にチョップを繰り出した菅野であったが(理性が少し勝ったのでチョップで済んだ)、それを受けてもアステはめげずに「次に来る時までに考えておいてください!」と言い逃げるように去っていった。
    二番目とか、なんだよそれ。
    菅野は呆然と立ち尽くす。どうなってんだこの世界の恋愛観。ここでは恋人は複数いるもので尚且つナンバリングされるのが普通なのか?と、菅野は深く絶望していた。
    一番も二番もない。あったとしても野郎は絶対お断りであるのにここから先どうすればいいのか。ふらり、となんとか足を動かした菅野は、意識を遠くに飛ばしながらも艦内へと戻る。

    ───────とりあえず島津に相談してみるか。

    菅野の受難はまだまだ続きそうだった。




    ⭐︎特にいらん人物紹介⭐︎
    菅野 直 全体的に被害者
    島津 豊久 途中からなんか様子がおかしいぞ!
    アステ=デウマ 適当アナグラムネームドモブ。名前を並び替えてみよう!
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