ある日の洗面所にて「おー、おかえり」
帰宅して洗面所に入ろうとすると、そこには上半身裸の廉がいた。帰っていることは分かっていたが、ここにいるとは思わなくて少し驚いてしまった。
「ただいま。使ってるなら戸閉めといてくれる? びっくりするでしょ」
廉は特に悪びれずに「まだ帰ってこねーと思ったんだよ」と返事をして、ズボンにも手を掛ける。
「そ」
洗面台で手を洗い出したところで、服を脱いだ廉が風呂場に入って行った。洗面台の鏡越しにその背中を見送っていると、あるものが目につく。タオルで手を拭いて、シャワーの音が聞こえないうちに風呂場の戸を少し開けた。
「廉」
「あ? 何だよ」
素っ裸でこちらを見る廉に向けて、ちょいちょいと右の肩を指差す。
「肩」
一瞬意味不明と言いたげな顔をしていたが、昨晩の記憶が蘇ったのかすぐにハッと自分の肩に触れた。
「忘れてただろ」
「おー、貼りっぱなしだったぜ」
その手には、役目を終えた湿布。くるくる丸めて、渡してくる。最近アクションシーンの多い撮影をこなしているからか、「何か肩が突っ張る」と言って昨晩は湿布を貼って寝ていたのだ。
「まさか、撮影で湿布映してないよね?」
「それは流石に有罪だろーが。まず、今日は脱いでねー」
「そう。よかった」
湿布をごみ箱に放り込んで、うがい用にとカップに水を溜める。後ろから聞こえるシャワーの音を聞きながら、最初はもうちょっと恥じらいがあったのになぁと、「あんまじっと見んな」と口を尖らせていた様子を思い出す。
あれもよかったけど、自然と全てを見せてくれるのも悪くない。一人頷いていると、廉がくしゃみをしたので思わず笑ってしまった。今のは噂じゃないだろう。
終わり
「は……? 何笑ってんだ聖」
「ふふ、何でも〜」