崖と獣「獣を見てきれいだって思ったことはある?」
見上げる少女の瞳はかつての自分と同じ色をしていた。
眼下に広がるジュラの森は、以前訪れたときよりもその面積をわずかに減らしているようだ。そのために森の獣たちの種の均衡が崩れ、人里を襲うものも頻繁に現れるらしい。しかし、誇り高き狩人たちも数が少なくなってきているという。彼らの手に余る事態なのだと嘆くブランシェット領主の命で、シノはひとり箒を駆ってジュラの森まで赴いたのだった。
シノは跨がっていた箒を徐々に立てながら速度を落とすと、森の端に音もなく降り立った。ゆっくりと深く息を吸う。森の空気は昔と変わらない。それだけ確かめると、シノはいちど森を後にして狩人たちの集落へと向かった。集落の入り口には壮年の狩人が佇んでいて、シノの姿をみとめると無言で彼を招き入れた。
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