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    okitsutl

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    タイレオ ワンライ
    テーマ『可愛いだけじゃダメですか?』
    1h+15min
    1日遅れですみません

    #タイレオ

    かわいいかわいくないかわいい「見てください、これ、かわいい!」
     レオが差し出したぬいぐるみは、イヌともネコともウサギともつかず、目は大きく、でもちょっとうつろで、虹色の毛がとにかくふわふわした何かだった。
     土曜の昼下がり、レオが衣装の生地の買い出しをするというので、タイガは荷物持ちとしてついて回っている。朝からのハードな練習後、カツ丼が身体に染み、すっかり昼寝をする気分になっていたタイガだったが、なぜか今は2kg×7人分=14kg、概ね米袋に相当する重さの紙袋を下げていた。服なんてものは、着てしまえば重さを感じないのに、なぜ布っきれがこんなに手のひらに食い込むのか。レオがいう「フクシザイ」とやらが豊富な店はどこにあるのか。タイガはなにもわからぬまま、路面の雑貨店で、レオの道草に付き合わされている。どうしてこうなった。


    「生地の買い出しかあ、重くなるだろ。僕がついていこうか?30分くらい、待てる?」
     昼食の食器を片付けながら、ミナトがレオに声を掛ける。
    「いえ、帰りが遅くなってもご迷惑おかけしますし⋯⋯」
     コーヒーを啜るカケルが、ノートパソコンから顔を上げた。
    「あらぁ〜?今日はユキちゃんもシンちゅわんもお出かけだし、俺っちもお仕事あってね〜⋯⋯でも弟くんじゃねえ」
    「どういう意味だよ!!オレにかかればなあ」
     ミナトの後ろにいたユウは、別に片付けの手伝いはしておらず、本当に後ろにいただけで────残りのコーヒーで甘いカフェオレをいれてもらう心づもりだったようだが、振り返って腕をまくる。
    「いや、そもそも涼野は、今日曲のアレンジ仕上げるって言ってただろ」
    「うっ」
     冷静なミナトに、ユウがいちど丸めた袖口をのばす。なにやってんだこいつら、とタイガが大あくびをした瞬間、全員がこちらを見た。それで、つまりはこうなった。


    「なんなんだコイツは」
     なんでただの子猫のぬいぐるみじゃダメなんだ、わかりやすくかわいいだろ、とタイガは思わないでもない。
    「この子ですか?⋯⋯うさにゃんわんだ〜ちゃんっていうそうです」
     レオがタグを読む。うさぎ、にゃんこ、わんこ、みんなとなかよしのふしぎなふわふわ。そのタグの裏の、3980円、にタイガは喉が詰まる。なお、タイガの小遣いは月500円である。
    「これ、一体、何の役に立つんだ⋯⋯⋯⋯」
    「え、かわいくないです?」
     タグから目を離したレオが、ぬいぐるみの顔の後ろから、顔を傾けて上目遣いで問う。
    「いや、かわいい、のかもしんねーけどよ」
    「⋯⋯可愛いだけじゃ、ダメですか⋯⋯?」
     う、とタイガは返す言葉を失った。なんでこいつはこういうこと言うんだ。なんなんだ⋯⋯なんて返せ、っつーんだ⋯⋯
    「ダメじゃねー、ねーけど、他にも値打ちがあんだろ、なんか分かんねえけど、コイツを見てたらお前は嬉しくなったり、するんだろ⋯⋯」
     レオが大きく瞬きをして、そして、大きく頷いた。
    「はい!」
     そういって、レオは棚にぬいぐるみを戻した。
    「買わねーのかよ」
    「⋯⋯タイガくんもこの子の魅力をわかってくれたみたいですし、⋯⋯ちょっぴり、おねだんはかわいくないので⋯⋯」
     レオが小さくぬいぐるみに手を振って、再び歩き始める。タイガは、別にアレがかわいいかを理解したわけではない気がするが、と思いながらも、反論する気にはならなかった。


    「寄り道ばっかじゃねーか、いつ着くんだ」
    「もうすぐです!」
     歩道が混雑し始め、タイガは紙袋を通行人に、そして前を行くレオにぶつけないようにと試行錯誤した結果、両腕に抱える羽目になる。
    「遅くなったらまずいんじゃなかったのかよ」
    「タイガくんが、重いもの運んでくれてるおかげで⋯⋯とっても早く、着きそうだったので、つい⋯⋯ありがとうございます」
    「お、おう⋯⋯」
     感謝されて居心地が悪くなり、タイガは頭を掻きたくなったが、あいにく両手が塞がっていた。ごまかすように、声を絞り出す。
    「ところで、フクシザイっつーのはなんなんだ⋯⋯」
    「スパンコールとかレースとか、衣装がかわいくなるものです」
    「すぱんこーる⋯⋯かわいい⋯⋯」
     またもや、よくわからないものが「かわいい」と定義され、タイガにはもはや「かわいいにも色々ある」までの理解で限界だった。
    「ふふ、タイガくん、かわいいですね」
    「⋯⋯!?撤回しろ撤回」
    「うふふ」
     レオの感覚がタイガには理解できない。謎のぬいぐるみ、謎のすぱんこーる、そして自分自身、かわいいの幅が津軽平野より広い。
    「お前のかわいい、がよくわかんねえ⋯⋯」
    「それでも、わかろうとしてくれるのが、うれしいんですよ」
     タイガはいよいよ逃げ出したい気持ちに駆られたが、目の前に「手芸副資材」の看板が見えて、役目を全うすることにした。
    「⋯⋯あー重いな、畜生⋯⋯」
    「だから半分持ちますって」
    「いいんだよ!!!」
     紙袋を抱きしめて、タイガは唸る。わからない。すぱんこーるがどのくらいの重さのものなのかも、一体何がかわいいのかも、何も。ただひとつ思い出したのは、来月、レオの誕生日だ。
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