君とならきっと。春が来た。春一番に乗せられて運ばれるのはきっと花びらや葉っぱだけじゃない。
去年も。一昨年も。彼と出会って、別れて。
互いにどうすれば正解だったのかを考え尽くしたあの一年を含まないのであれば、俺たちの過ごした日々は一瞬だった。
周りの誰よりも過ごした時間は短かった。
けど俺の中での千空。君は日を追うごとに大きくなっていった。
別に彼を縛りたいわけでも、閉じ込めておきたいわけでもない。
最初はそう考えたこともあったけど1度殺した時彼には自由が似合うと気がついた。
あの時はもう遅かったとそれを見て見ぬふりをするしか無かったが今はそうでは無い。
だから自分の中に生まれた暖かな感情は見なかったことにして彼とは距離を置いた。
「千空が、俺を?」
距離を置いて彼を見守ろうと決めてから数ヶ月後彼から個人的な話があると呼び出された。
「なぁ、司テメーなんか隠し事してんだろ。」
彼いわく隠し事は何もメリットがない。だから隠し事をするよりも話し合いをした方が合理的……らしい。
なんとも彼らしい意見だ。
けど別に隠し事と言われても思い当たる節は無い。
「隠し事……と言われるような事はしてないと思うよ?」
そういうと彼は大きくため息をついた。
「じゃあ聞き方を変えるぞ。最近テメーが俺をずっと獲物を狩る見てーに観察しまくってんのは別になんかやましい事がある訳じゃねえんだな?」
ため息の後続けられた言葉に何一つ自覚はなかったがそんな風に見えていただなんて……。
「え、そんなに怖い顔をして君を見ていたかな。」
「おう、お陰様でメンタリストが胃がいてーって嘆いてたぞ。」
そんなに……そんなにかと今度は俺が頭を抱えた。
「で、なんか言いてえこととか隠してることとかねえのか?」
「……、あるといえば……あるのかもしれない。」
千空の質問に歯切れの悪い答えを返した俺を見て彼はまだ納得いかないと言う顔をしたままこう続けた。
「俺もこういうのは専門外なもんでな。メンタリストに色々聞いてみたんだよ。」
……その言葉に俺はビクッとあからさまに反応してしまった。それを見たのか見てないのかは分からないが千空はこう続けた。
「1つ目は狩猟本能、2つ目は……好意。らしいんだがどうだ?思い当たる節はねえか?」
観念するしかないと思った。
嫌われても仕方がないと。
「……そうだね。君の思っている通りどちらも当てはまるよ。
俺は君が……好きだと思う。けど君を縛り付けようとか閉じ込めて独り占めしようとかはもう思ってないんだ。
視線が気になるようなら、距離を置こう。
不快にしてしまってすまなかった。」
真っ向からの否定を聞きたくなくて言葉を羅列した。
俺にまだこんな弱さがあっただなんて。
言い終わると直ぐにその場から離れようとした。
「3つ目はなそれは俺にも言えるってことだ。」
背を向けたまま、その言葉の続きを待った。
正面をむく勇気は無かった。
「簡単に言えば俺もお前のこと見てたから視線もどういう顔してたのかもわかったってことだ。
なぁ、司。返事聞く前に決めつけて逃げてんじゃねーぞ。
俺も好きだ。
さっきお前の気持ちを聞いて確信した。」
振り向くと赤い瞳が、真っ直ぐに俺を見つめていた。
真剣な表情をした千空はそのまま近づいてきて俺の豆が何度も潰れて固くなった手をすくい上げた。
その時俺はあぁ、もう隠しきれないと確信した。
春の強い風がふいた。
風は花びらや葉っぱと同時に、何か違うものを運んできたらしい。