「伊達はん。」
普段とは違い、珍しく夜が明ける前に仕事を終えた真島は、シンプルな黒の七分袖Tシャツとロングパンツに着替えていた。元々スリムで背の高い体型が、さらに少し痩せたようにも見える。
「こんな夜遅くにお邪魔してすまん。これ、桐生があんたに渡したいものだ。」
「……」
伊達の手元にある箱をじっと見た。きっちりとした形の四角い木箱。温かみのある木の質感だが、中身や重さは見た目からは全くわからない。真島は手を伸ばすのをためらった。それが自分に耐えられるものではないことを知っていたからだ。
桐生との関係もこれと同じだった。桐生が去る時は、何も残らない。真島は彼を引き止められず、また引き止めることもしなかったのだ。
1854