異形の森 2 フロイド・リーチはゴーイングマイウェイを絵に描いたような人魚だが、彼にだって不得手とするものくらいある。束縛しかり、しいたけしかり。それらがそうなるだけの所以があって嫌いな物事として、小ぶりだけどやたらと高演算な頭部に押し込められている。あるいは心臓から送り出されて全身を循環しているのであろう。席について淡々とした講釈を聞き流すだけの授業は、フロイドの体内を巡る苦手なもののひとつだ。だからこそやんちゃの称号を欲しいままにする人魚が、ほんの少し目を眇めるだけに留めているのがひどく不気味だった。
「どうかした?」
回されたプリントを差し出して思わず問う。そしてすぐに失敗した、と口の中だけで呟いた。フロイドが小さく舌打ちをして、乱暴にプリントを奪ったからだ。一瞬視線を向けられ、用はないとばかりに外された。何かを言ってくるでもなく、ましてや不条理に絞めてくるわけでもなかったことに安堵する。それが伝わったのかまた舌打ちされたため、これ以上不興を買わず意識に踏み込まないよう努めてシャットダウンする。机はそこそこ大きいから互いの間に距離があるのが救いだ。どうせなら衝立も設置したい。
2668