中村のはなし(仮)「…悪い。今日は帰るわ」
部活終わりには、駅前のファーストフード店でチームメイトと反省会をするのが恒例となっていた。とはいえ反省会とは名ばかりで、要はただ集まってダベりたいだけである。ひとり抜けたところでどうということはないが、断り方がこの友人にしては少し珍しいな、と思った。
「そうか。じゃあまたな」
理由は聞かなかった。気分じゃねえからやめとくわとか、家の用事があるからとか、気分にしろ予定にしろ何かしら言って帰ることは時々あった。今日はそれをしないということは、言いたくない訳があるからだろう。
「女かな?」
「さっきスマホ見てたぜ」
「女か…」
「………いや、無いな」
「彼女が出来たとして女優先するタイプに見えるか?」
「残念ながら見えない」
「モテるのに全然興味ねえんだよなぁ勿体無い」
「お前と違ってな」
「それどっち?興味の方?モテる方?」
「まあアイツのことだし無難に家族だろ」
「なぁ」
「つまんねーの」
「なあって!」
「それよりさぁ……」
適当に誤魔化しといてくれ、とでもこっそり頼んでくれればまだ可愛げがあるというものだが、そうはしないのが友人らしい。誠実は美德だが、話題を逸らしてやるのにも存外骨が折れるということを、彼は知っているのだろうか。