月に想う 軍事会議を翌日に控えた深夜、机に向かって唸る赤い毛玉は主である練紅明だ。
四日寝ておらず、五日風呂に入っていない。元は美しい赤毛も脂で艶が増し、掻きむしった分だけ乱れている。眠気覚ましに、時折体を拭いてもらっているので、辛うじて臭いはない。
大切な軍議の前、紅明は殆ど睡眠も食事も取らず、月の満ち欠けと星々の動きから季節風を読み、土地土地の風習慣習から最も効果的な征服方法を考える。
紅明は、知略をめぐらし国の未来を切り開いていく。
忠雲はそんな紅明を尊敬し、国を導くのはこの人だと思っていた。
『お前は見る目があるな』
煌帝国第一皇子である紅炎が、忠雲に向かって言った。
声につられて紅炎に顔を向けたものの、なんと返事をしていいのか分からない。
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